根管治療(歯の根の治療)を終えた歯が、時間がたっているのに痛みが出てきて不安に思う方も多いのではないでしょうか。
根管治療は、ほとんどの歯科医院で日常的に行われていますが、実は歯科の分野でも最も難しい治療の一つであり、何年か経ってから症状が再発して再治療となるケースも多いのも事実です。
今回は根管治療が再治療となるケースについて解説します。ぜひ参考にしてください。
1.根管治療とは
虫歯が神経まで進行してしまった時などに歯科医院で「根っこの治療をしましょう。」と言われたら、それは根管治療です。
神経の通る管(根管)の中を消毒し、きれいにお掃除して感染物質を除去する治療です。
もう少し専門的に言うと根尖性歯周炎といい、歯の健康を維持する治療です。
1-1.根尖性歯周炎とは
歯の根の先の炎症のことです。
歯の内部には”歯髄”と呼ばれる神経や血管が通るゼリー状の柔らかい組織が入っています。(図1,2,3参照)
細菌の塊である虫歯が大きくなると、その歯髄にまで細菌が及び、歯髄が腐ります。その歯髄の入っていたスペースは空になり、どんどん細菌が侵入し、根の先まで到達し悪さを始め炎症を起こします。これが根尖性歯周炎です。
根尖性歯周炎には様々な症状があり、症状はないが根の先の骨を溶かしたり、咬むと痛む、最悪の場合は夜も眠れないほどの痛みを感じることもあります。根尖性歯周炎はとても恐ろしい病気です。(図4,5,6参照)
図1:歯の断面。内部に歯髄が入っています。(社団法人 日本歯科医師会 歯の神経の治療の必要性と難しさより抜粋)
図2:歯髄の実際の写真。ゼリー状の組織です。
図3:歯髄から血が出ているところ。
図4:虫歯が大きく根の内部に細菌が入り込み、根の先で炎症を起こします。(社団法人 日本歯科医師会 歯の神経治療の流れより抜粋)
図5:根尖性歯周炎のレントゲン写真。根の先が黒く抜けています。これは炎症で骨が溶け空洞になっているサインです。
図6:根尖性歯周炎で根の先の骨が溶けてできた空洞。
1-2.根管治療の重要性
根管治療の精度がその歯の寿命を決めると言っても過言ではないです。根管治療は歯を長持ちさせるのにとても重要な治療です。
虫歯や根の中に細菌が侵入することを”感染”と呼びます。歯における感染は、進行すればするほど、その歯を残すことが難しくなる、いわば“歯のガン”と言えるでしょう。根の内部に細菌が侵入するほどの感染は、かなり進行しています。歯の”進行ガン”です。その進行した感染を根の中から取り除き、歯の健康を維持させるのが根管治療です。
図7:生ゴミのような根の内部の感染と、その周りを取り囲む虫歯。
1-3.根管治療の成功率について
成功率と言っても様々な要素で変化をするため、これといった数字を出すことはできません。そのような中で、あるデータを参考にすると、岡山大学付属病院に来院した患者さん672人の内、根尖性歯周炎になっている歯がある人は469人(69.8%)、根管治療を受けている歯3320本の内、根尖性歯周炎になっている歯は1329人(40%)であった、という結果が出ています。
この数字が全てを物語る訳ではないですが、筆者の経験でも、10本に4〜5本は根の先に炎症があります。決めつけることは決してできませんが、全体の半分近くの根管治療が失敗しているのではないでしょうか。それほど、根管治療は難しい、ということでしょう。
2.根管治療の失敗といえるケース
①感染を取り残してしまった場合
②治療中に根の中が感染してしまった場合
③治療後に根の中が感染してしまった場合
2-1.感染を取り残してしまった場合
虫歯、根の中の感染を取り除くことはとても、とても難しいことなのです。
根の内部の汚れは取ることは非常に困難で、大変な作業です。その大きな理由は内部が小さすぎて、見えないことに原因があります。そのため、勘に頼らざるを得ない不確実な治療であり、多くの失敗が見られるのです。
2-2.治療中に根の中が感染してしまった場合
お口の中、唾液の中には細菌がたくさんいます。
便器よりも細菌の数は多いと言われています。まさに”感染物の海”と言えるでしょう。そのような環境で根管治療、つまり根の中の汚れを取り除いたとしても、せっかくきれいにした根の中に細菌が入り込んでしまいやすいことは、容易に想像がつくのではないでしょうか。
また、根の中から汚れを取り除く、リーマー、ファイルと呼ばれる器具が汚れていると、逆に汚れを押し込む結果となってしまいます。苦労してきれいにした根の中に、失敗する根本的な原因を入れてしまうことになります。(図8,9参照)
図8:根の内部の汚れを取り除くドリル”リーマー、ファイル”
図9:ドリルを用いて、根の中をきれいにします。(社団法人 日本歯科医師会 歯の神経の治療の必要性と難しさより抜粋)
2-3.治療後に根の中が感染してしまった場合
根管治療が終わったあと、その歯にはかぶせ物をします。
かぶせ物は人工物のため、歯とかぶせ物の間には、どうしても隙間が出来てしまいます。その隙間を縫って歯の内部に細菌が侵入し、根の中で悪さを始め、数年経った後、その治療した歯は、根尖性歯周炎になってしまいます。これも根管治療の失敗といえます。
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