矯正治療はなぜ必要?歯並びが悪くなる原因から予防法を矯正専門医が徹底解説

骨の成長に関係が深いものは脳下垂体と甲状腺があります。

a) 脳下垂体のホルモン…頭の骨の底の部分にあるクルミ大の小さな器官。前葉と後葉に分かれ最も多くのホルモンを分泌している。前葉からは成長ホルモンも分泌されていて、これは骨の端に働きかけて成長を促します。分泌が悪いと成長が遅れて身長が伸びず、過剰になると背が伸び過ぎる巨人症になります。後葉からは抗利尿ホルモンが分泌されていて、尿の量を調節している。このホルモンが分泌されないと多量の尿が排出され、体内の水分が失われることになってしまいます。末端肥大症(アクロメガリー)は脳下垂体の機能が活発になり過ぎることによって起こるもので、顔面では特に下顎の骨の異常な成長がみられます。

b)甲状腺(こうじょうせん)ホルモン…神経系の働きを高めたり、骨の成長を促したり、色々な代謝を高めたりします。生まれつきこのホルモンが不足すると知能が遅れ、骨の発達も遅れるため、背が伸びなくなってしまいます。過剰に分泌されると、新陳代謝が盛んになり、脈拍が速くなる、汗をかきやすい、食欲は増すが痩せてくるといった症状が現れます。甲状腺の機能障害によって起きるクレチン病は、口の領域で前歯の突出、歯の数の異常などの特殊な症状が現れると言われています。

部分的な原因

全身的な原因が全身的な病気によって起きるものであるのに対して、部分的な原因は歯や顎の骨、口の中の歯茎や舌や頬の粘膜の軟らかい組織に原因があるもの、また舌の動きの悪い癖のように、直接歯や歯並び、顎の骨に悪影響を与えるものです。

■ 乳歯から永久歯への歯の萌え換わりの異常

乳歯から永久歯に萌え換わる順序が大切な要素で、通常上顎では犬歯が最後に萌え換わるため、永久歯が萌えるスペース不足の場合の代表的な歯並びが悪い状態として、犬歯が八重歯になることが多くあります。

乳歯から永久歯に萌え換わる時期に永久歯に順調に萌え換わるには前歯の部分では乳歯の間に十分なスペースが存在すること、奥歯の部分では永久歯が萌える時期まで乳歯が虫歯になったりせずに存在していて、永久歯が萌えるスペースを確保していて乳歯が確保しているスペースより後から出てくる永久歯の大きさが小さいことが必要条件となります。

虫歯などで乳歯が早く抜けてしまった時には、永久歯が萌えるためのスペース不足が起きて永久歯が萌えてきた時に歯並びが悪くなります。乳歯が永久歯の萌え換わりの時期まで残っていたとしても、乳歯の歯並びの時に乳歯と乳歯の間に十分な隙間がなかったり、顎の骨が小さい場合などの原因で、永久歯に萌え換わった時に歯並びが悪くなってしまいます。

小学生の間ぐらいの時期に乳歯から永久歯に萌え換わりますが、この時期に永久歯の萌え換わりの異常を引き起こす様々な原因が含まれているため、最も重要視されなければならないのです。

この時期に自然に乳歯から永久歯への萌え換わりを待っていると、日本人の場合では永久歯の萌える位置の異常が約8割という、とても高い頻度で起きると言われています。

6歳臼歯までの歯並びが完成した後、最後に12歳臼歯が6歳臼歯の後ろに萌えてきます。この時、6歳臼歯の萌えている方向が悪かったり、6歳臼歯の後ろの部分の顎の骨の顎の骨の長さが足りなかったりすると、12歳臼歯の萌え方にも問題が出て咬み合わせが悪くなってしまいます。人によってはその後さらに、親知らずの萌え方が問題になってくる場合もあります。

永久歯の萌え換わりの異常は、萌える時期の異常と萌える位置の異常に大きく分けることができます。

萌出遅延(ほうしゅつちえん)
通常の永久歯が萌える時期より遅れる場合で、そのうち部分的な原因として考えられるものを掲げていきます。

■ 歯胚(しはい)の位置異常
歯胚とは歯の元となる細胞の集まりです。顎の骨の中で、成長中の歯胚に外から力が加わると、歯胚が萌える方向に進まずその場にとどまってしまったり、位置や方向を変えることがあります。その結果、永久歯胚(永久歯の歯胚)の本来の成長が阻げられ、萌える時期が遅れるだけでなく、萌える位置の異常も起こります。

■ 嚢胞(のうほう)の形成

体内で作られた液状のものを含む袋状のものを嚢胞といいます。囊胞により永久歯の萌出遅延が起きてしまいます。

■ 乳歯の晩期残存(ばんきざんぞん)

正常な時期に乳歯の歯の根の吸収が進まないことにより、乳歯が残って永久歯に萌え換わらない状態を晩期残存(ばんきざんぞん)といいます。これもその後から萌える永久歯の萌出遅延(ほうしゅつちえん)、萌える位置異常を起こします。

■ 永久歯が萌えるためのスペース不足

特に奥歯の乳歯を虫歯で早く失うことにより、隣りの歯は乳歯が無くなった部分に傾くため位置異常が起こり、後から萌え換わる永久歯の萌出スペースが不足することで、萌出遅延の原因となります。

■ 過剰歯(かじょうし)や歯牙腫(しがしゅ)
永久歯が顎の骨の中から口の中の歯茎に萌える進路に過剰歯や歯牙腫などがある場合、萌出遅延の原因となります。

過剰歯とは、上下の永久歯の正しい数合計28本よりも多く存在する歯のことです。女性よりも男性に多いと言われています。発生する場所で最も多いのは、上顎の前歯の間でこの場所にできた過剰歯を正中過剰歯(せいちゅうかじょうし)、さらに過剰歯の埋伏歯の場合は正中埋伏過剰歯(せいちゅうまいふくかじょうし)と呼びます。

歯牙腫とは、歯を形作る組織の一部が増殖してしまう良性腫瘍(りょうせいしゅよう)のことです。この病気は、10代20代に多く痛みなどの自覚症状が無いため、発見が遅くなる場合があります。定期検診や虫歯の治療でX線撮影をした時、偶然に発見されることが多いです。治療せずに放置していると、歯牙腫の周囲の永久歯が萌えるのを妨害することによって歯並びが悪くなったり、永久歯が萌えて来ず埋伏歯になる原因になります。

■ 歯肉の肥厚(ひこう)
乳歯が永久歯に萌え換わる交換期を過ぎても、永久歯が萌えない様な場合、歯肉が厚くて硬いことが原因になっているもあります。

■ 萌出位置(ほうしゅついち)の異常
多くの不正咬合の原因は、高い確率で起こる永久歯が萌える位置の異常であり、それを萌出位置異常と言います。

前歯の場合

永久歯の前歯の歯胚(歯と歯の周りの組織の元となる細胞の集まり)が乳歯の前歯の内側に位置している様な場合、永久歯は乳歯が萌えている内側から萌えて、歯並びが前後的に二重の状態になってしまいます。

前歯が前後的にずれて萌えて来た場合は、出っ歯や受け口の様な上下の歯並びの前後的な位置関係の異常を起こすことが多くなります。

犬歯の場合

よく見られる例として、上顎の犬歯の八重歯は、乳歯から永久歯に萌え換わる交換順序と、乳歯から永久歯に萌え換わる期間、先に萌えている6歳臼歯は乳歯が抜ける時に手前にずれて、永久歯が萌えるスペースの減少が起きてしまうことが原因になります。

小臼歯の場合

上下の顎ともに手前から数えて4番目と5番目に相当する永久歯で、犬歯と6歳臼歯の間の2本の小さい歯を小臼歯(しょうきゅうし)と呼びます。小臼歯は捻れて萌える、内側にずれて萌える、内側に傾いて萌えるということがよく起こります。乳歯が虫歯により早く抜けてしまうと、その後の永久歯が萌える位置の異常が起こります。これも乳歯から永久歯に萌え換わる期間、先に萌えている6歳臼歯は乳歯が抜ける時に手前にずれて、永久歯が萌えるスペースの減少が起きてしまうことが原因になります。

大臼歯の場合

上下の顎ともに、6歳臼歯と12歳臼歯と呼ばれる、手前から数えて6番目と7番目に相当する大きい永久歯を、大臼歯(だいきゅうし)と言います。上顎の大臼歯は、捻じれて萌える、外側にずれて萌える、外側に傾いて萌えるということがよく起こります。

下顎の大臼歯は内側にずれて萌える、内側に傾いて萌えるということがよく起こります。乳歯から永久歯の萌え換わりの期間にこれらの問題を予防するためには、虫歯を予防し健全な乳歯の咬み合わせを守ることと、後から萌えて来る永久歯とのスムーズな交換が必要不可欠です。

広告
乳歯から永久歯への誤った歯の萌え換わり

乳歯から永久歯へのスムーズな歯の萌え換わりは、咬み合わせを形成する上で極めて重要なことです。 乳歯は永久歯が萌えるまで、一時的に咬む役目を果たすだけのものではありません。幼少期から小学生時代の体の成長に必要な栄養摂取に始まり、食べ物を咬むことによって顎の骨の成長にも大きな影響を与えます。したがって、健全な乳歯の咬み合わせを守ることは、後から萌え換わる永久歯の萌えるスペースの確保や、永久歯の正しく萌える進路の誘導にも関係します。

歯の萌え換わりに影響を及ぼす要因は、全身的な要因と歯の部分的な要因とがありますが、多くの問題が含まれるのは後者の方です。歯の交換に影響を及ぼすと思われる部分的な要因として、以下のものが考えられます。

乳歯に原因があるもの

a) 乳歯が虫歯になり歯の形が崩れた場合、歯の幅が短くなり、ひいては本来の萌え換わりの時期より早く乳歯が抜けてしまう原因となり、隣りの永久歯が倒れてくる様な移動が起きること、特に6歳臼歯と呼ばれる第一大臼歯(だいいちだいきゅうし)の手前側への移動、傾きなどが起きやすい。その結果後から萌える犬歯や小臼歯といった永久歯の萌えるスペースがなくなり、永久歯が正しく萌えることができなくなります。

b) 本来萌え換わる時期には乳歯の根が吸収されて短くなり、自然に乳歯が抜けるのですが、乳歯が虫歯になり神経にまで感染した場合、その現象が障害を受けて乳歯の根が吸収されて短くならず、正常な乳歯の自然に抜け落ちることがないため、後から萌える永久歯の進路の邪魔をすることで、永久歯が正しく萌えることができなくなります。

c) 乳歯が虫歯になり神経にまで感染して根の先に膿が溜まった状態になることによって、後から萌える永久歯の萌える方向や萌える時期に異常が起こります。

d) 乳歯が虫歯になり歯の高さが短くなると、上下反対側の咬み合っていた歯が伸びてくることにより、後から萌える永久歯が必要な高さまで萌えることができなくなってしまいます。

永久歯に原因があるもの

a) 永久歯の歯胚(歯と歯の周りの組織の元となる細胞の集まり)のできる位置や永久歯が萌え進む方向に異常がある場合は、乳歯の根の位置とずれた場所に永久歯が萌え進むため、乳歯の根が吸収されず萌え換わりの時期に自然に萌え換わることができず、その結果永久歯の萌える方向や萌える時期に異常が起こります。

b) 第一大臼歯(6歳臼歯)が前に傾いて萌えることにより、本来の萌え換わりの時期より早く乳歯の根が吸収して乳歯が抜け落ちる原因となります。

c) 歯肉炎や歯肉肥厚は、永久歯の萌える時期が遅れる原因になります。

d) 永久歯が虫歯や外傷で早い時期に抜けてしまうと、その後ろの永久歯が順に前に傾いてしまうことで、歯が並ぶことができる部分の長さが短くなり、永久歯が萌えるスペースが不足する結果、永久歯の萌える方向や萌える時期に異常が起こります。

e) 永久歯が虫歯や外傷で成長期に抜けてしまうと、単に咀嚼などの機能が低下するだけではすまされません。隣りの永久歯には傾き、抜けた永久歯側への移動が起こり、また咬み合っていた上下的に反対側の永久歯は、抜けた永久歯の方向に延びてきて咬み合わせがずれてきてしまいます。このように隣り合う歯の位置関係が乱れると、食べ物が挟まり易くなり、歯ブラシをしても食べ物の磨き残しが出易くなり、虫歯や歯周病(歯槽膿漏)が発生し易くなります。第一大臼歯(6歳臼歯)がなんらかの理由で抜けて失われると、後ろの第二大臼歯(12歳臼歯)は6歳臼歯のあった手前側に傾き、前の小臼歯は6歳臼歯のあった後ろ側に傾き、永久歯の萌える方向や萌える時期に異常が起こります。さらにこれらの現象は前歯の咬みあわせが深くなる過蓋咬合(かがいこうごう)、上の前歯が前に出て下の前歯が内に入り出っ歯の状態になる上顎前突(じょうがくぜんとつ)などの原因となることもあります。

以上の様に成人に達する以前に永久歯が抜けてしまうと、食べ物を咬む能力低下や発音障害、見た目が悪くなり精神的な影響が出る、虫歯や歯周病になりやすくなり歯の寿命が短くなる、不正咬合の原因や顎の成長の異常をきたす、ひいては健康寿命が短くなるなど、全身的な健康への影響も大きく大きな問題となる。したがって、永久歯が抜けてなくなってしまった場合に対してはすみやかな治療が必要とされます。

唇・舌・口の中の粘膜部分の形の異常

これは遺伝的または先天的原因に属するものであるかもしれませんが、上下の唇の裏と舌の裏の小帯(しょうたい)と呼ばれる筋、舌、唇などの異常が掲げられます。

■ 唇の異常

生まれつき唇の形に異常があると、審美障害(見た目の障害)や発音障害となり、本来の体の機能が妨げられることになります。

■ 小帯(しょうたい)の異常

小帯は上唇の裏(上唇小帯:じょうしんしょうたい)、下唇の裏(下唇小帯:かしんしょうたい)、頬側の粘膜の裏(頬小帯:きょうしょうたい)、舌の裏(舌小帯:ぜつしょうたい)があり、これらの小帯の異常には位置の異常、形の異常、数の異常があります。

小帯の異常があると、発音障害、歯の位置異常、歯周病(歯槽膿漏)、咬み合わせの乱れ、顔の形への影響、そして成人であれば虫歯の治療をした場合の、かぶせ物の安定性が悪くなるなどの障害も起こります。

上の前歯の間の空隙、正中離開(せいちゅうりかい)の原因として考えられるものに、上唇小帯の異常が掲げられます。前歯が萌える時期にみられる歯の隙間は、2番目の前歯あるいは犬歯が萌えることによって、最終的に自然に閉じるものが多いです。しかし、自然治癒を妨げる原因の一つに、小帯の形または位置異常が掲げられます。このような状態の時には小帯を切って取り除く手術が必要となります。舌小帯に異常がみられる時などは、舌の運動障害、発音障害を起こすことがあります。大きさが異常な舌小帯によって舌の機能が低下されたり、また舌小帯が短いまたは癒着する異常である舌強直症の状態でも、舌の運動障害、発音障害を起こすことがあります。時として歯茎近くまで延びている小帯の位置の異常は、歯が萌えるのを妨害したり、歯の周囲に食べ物が残りやすく歯ブラシも難しくなるため、歯周病や虫歯の原因ともなります。いずれの場合でも、小帯の付着部の位置的状態によっては外科的に切除することが必要となります。

■ 舌の異常

a) 無舌症(むぜつしょう)と小舌症(しょうぜつしょう)

先天的に(生まれつき)舌がない場合を無舌症(むぜつしょう)といいいます。食べ物を飲み込む嚥下運動(えんげうんどう)の障害をはじめ、発音障害などが起こります。また小舌症(しょうぜつしょう)は舌の大きさが小さい形の異常で、やはり嚥下運動障害、発音障害などが起こります。舌の形にこれらの異常があれば、歯並び、咬み合わせが形作られる上で、唇や頬の粘膜が歯を押す力を舌が支えてバランスを取ることができないため、歯が舌側に倒れてしまい、咬み合せに問題が起こります。

b) 巨舌症

舌の過剰な成長による形の異常を巨舌症(きょぜつしょう)といいます。舌が過度に大きいことにより特に下の前歯を外へと押し出す力がかかり、前歯の間に隙間ができる空隙歯列弓(くうげきしれつきゅう)、上下の前歯が咬み合わない開咬(かいこう)、下の前歯が上の前歯よりも前に出ている受け口の状態の下顎前突(かがくぜんとつ)などの不正咬合が起こります。

■ 悪習癖(あくしゅうへき)

不正咬合の原因となる悪い癖を悪習癖(あくしゅうへき)といいます。口の中に形態異常が見られることで、それに関連する特有な悪習癖を見い出すこともあります。

a) 哺乳瓶の乳首やゴム製乳首の、適性年齢を超えてからの長期使用

乳首を常に上下の前歯の間で挟むことによって、上顎前突や開咬という不正咬合が引き起こされます。

b) 吸指癖(指しゃぶり)

吸指癖(指しゃぶり)は吸引の程度、持続性などが不正咬合の原因として大きく関係します。この癖に関連する不正咬合としては、上顎の歯並びが狭くなる狭窄歯列弓(きょうさくしれつきゅう)です。さらに狭窄歯列弓による上顎前突と開咬などに発展します。

c) 咬唇癖(こうしんへき)

唇を咬む癖を咬唇癖(こうしんへき)といいます。下唇を習慣的に咬み込んだり、吸い込むことにより、上顎の前歯の前側への傾き、開咬などの原因となります。逆に上唇の場合では反対咬合の原因になることもあります。

d) 弄舌癖(ろうぜつへき)

弄舌癖(ろうぜつへき)と呼ばれるものは、舌の悪習癖の一つで、舌を無意識のうちに必要な運動以外の位 置や方向へ習慣的に運動させる癖です。これは飲み込み運動の時に舌で前歯を押す異常嚥下癖(いじょうえんげへき)と関係が深く、上下の前歯が前側に出て口を閉じることができなくなる上下顎前突(じょうげがくぜんとつ)、開咬などの原因となります。

e) 口呼吸(こうこきゅう)

唇を閉じる筋力不足、慢性的な鼻づまり、アデノイド肥大、鼻中隔彎曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)など鼻の異常があれば、正常な鼻呼吸(びこきゅう)をすることができず、口での呼吸を強いられ、それが習慣的になる状態を口呼吸と言います。強度な口呼吸者では、いつも口を開けているために前歯が前側に出てきて、上下の唇を閉じることが困難となり、歯茎や口の粘膜が乾燥し、免疫力が下がることにより歯肉炎や歯周病を起こしたり悪化させる原因となります。

f) 異常嚥下癖(いじょうえんげへき)

全ての乳歯が20本萌え揃い、乳歯の咬み合わせが完成する頃になると、成人と同じ飲み込み運動が身に付き、食べ物を飲み込む時には上下の歯が接触して咬み合った状態で、歯は舌にも唇にも接触しないのが普通です。つまり唇の周囲の筋肉は食べ物を飲み込む時には、自然に口を閉じる最低限の力だけで、ほとんど緊張しない状態になっているのが正しいのです。 しかし、異常嚥下癖(いじょうえんげへき)が存在する場合には、舌を上下の前歯の間に突き出す様な運動をするため、上下の歯が接触しないので飲み込む瞬間に上下の歯が咬み合うことができず、前に出ようとする舌を抑えるため唇の周囲の筋肉に力が入り強く収縮します。 原因は低位舌(ていいぜつ)と口呼吸(こうこきゅう)です。口呼吸と低位舌は深く関係しています。離乳食の食べさせ方、食事中に飲み物を飲むことによる流し込み食べ、アデノイド肥大、扁桃肥大など、鼻やのどの病気に関連するもの、などが原因で低位舌になり口呼吸になると考えられています。この癖があると歯並びに悪影響を与え、上下の前歯が咬み合わない開咬(かいこう)、下の前歯が外側に押し出される下顎前突(かがくぜんとつ)などの不正咬合になります。また手の指を吸う癖、爪を歯と歯の間にはさみ込んだり、歯で爪を咬みきったりする癖で開咬になってしまうと、それに伴って舌が上下の前歯の間に挟まる様になってしまい、異常嚥下癖になるということも言えます。鶏が先か卵が先か、ということです。

g) 睡眠態癖(すいみんたいへき)

いわゆる寝癖というもので、睡眠時の特定な姿勢のことをいいます。ある種の状態が習慣になると、それが原因で歯並びや顎の骨がずれてしまい、不正咬合になります。例えば掌を頬部や顎部に当てて寝る様な場合、奥歯の歯並びが狭くなり歯並びや咬み合わせが悪くなります。左右どちらかを下にして寝る、うつ伏せや横向きに寝る状態が続くと、顎がずれてしまい不正咬合になるばかりでなく、顔の見た目も非対称に歪んでしまいます。

■ 歯科疾患

a) 虫歯による歯の形が崩れる、虫歯により根だけが残った状態になる、虫歯や歯周病によって歯が早く抜けた場合、隣りにある歯や上下反対側の咬み合っている歯の位置に異常を起こし、不正咬合になります。

b) 乳歯に虫歯があり、根に膿が溜まっている病巣がある場合は、下から萌える永久歯の形成や萌え進む方向に悪影響を与えます。乳歯は萌え換わるからといって虫歯になってもいいという考えは間違いです。

c) 歯周病によって歯の根の周りの骨が弱くなり、上下前歯が咬む力を支えきれず外側に傾き、空隙歯列(すきっ歯)などの不正咬合になります。上下の前歯が外側に傾くと口を閉じれなくなり、その結果口呼吸になります。すると口呼吸はさらに歯周病や虫歯の原因になり、悪循環になって行きます。

■ 顎関節(がくかんせつ)の障害

顎が成長する時期に、外傷や炎症による顎関節症(口を開け閉めする時に音がする、顎関節の部分に痛みがある、口を開けたり閉じたりしにくい)が長く続くと、顎の運動不足も伴って下顎の骨の成長不足が起こり、不正咬合の原因になります。 その時、下顎の片方だけに成長不足が起きると、咬み合わせの異常が起きるでなく、下顎がずれて顔が非対称になってしまいます。

■ 鼻咽腔疾患

アデノイド、扁桃肥大(へんとうひだい)、鼻閉塞(びへいそく)、鼻中隔彎曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)など鼻やのどに異常があると、気道が狭められるため、正常な鼻呼吸が営まれず、口呼吸(こうこきゅう)をするような状態になります。口呼吸が習慣になると、上顎前突(出っ歯)、開咬など様々な不正咬合の原因になります。

■ 歯ぎしり

歯ぎしりの原因は、いまだ全て解明はされていませんが、咬み合せが悪いと歯ぎしりを引き起こすことがあると言われています。歯ぎしりによって強い力が歯に加わることで、歯と歯茎と周囲の骨、咀嚼する時に働く筋肉、顎関節に咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)と呼ばれる体の外からの刺激によってできた傷になります。歯周病と歯ぎしりによる咬合性外傷が合わさると、高度な歯周病に発展し、不正咬合が発生するだけでなく、歯の寿命も短くなってしまいます。

■ 口腔腫瘍

腫瘍とは、世間一般的に言われる「できもの」です。ですから、すべての腫瘍が癌というわけではありません。異常に増えた細胞がかたまっている状態が腫瘍です。腫瘍のうち口の中にできる腫瘍を口腔腫瘍(こうくうしゅよう)と言います。顎の骨の成長期、歯が形作られて、乳歯から永久歯への萌え換わる時期に、顎の骨や口の内の歯茎や粘膜などの軟組織に腫瘍があると、顎や歯の成長を妨げ不正咬合の原因になります。

外傷

体の外からの刺激によってできた傷を外傷(がいしょう)と呼びます。顔面の外傷の場合、歯が欠けたり、歯肉や粘膜や皮膚の傷が見られます。

■ 乳歯への外傷

事故などで乳歯への外傷があると、乳歯が抜けた後に入れ換わりに萌えて来る永久歯の位置異常を引き起こします。それに伴って、顎の骨の成長にも悪影響を与える結果となります。

■ 永久歯への外傷

直接歯に物がぶつかる事故などで永久歯に、歯を失う、歯の脱臼、歯が欠けるなどの問題が生じ、咬み合わせ悪くなる原因となります。 一方、顎や顔面への外傷で、直接歯に外傷が起こらなくても、歯や歯並びを支える顎の骨への影響も見逃すことはできません。骨折の頻度は、上顎より下顎で多く発生します。骨折線上に歯胚が存在している場合、また隣接しているような場合では、歯の萌出障害や位置の異常、下顎の骨のずれなどを起こす危険性があるります。したがって、顔面への外傷は子供、大人の年齢に関わらず、歯や歯並びに与える影響は大きいのです。顔面への外傷があった場合、応急処置を済ませた後は、歯が欠けていたりひびが入っていたりしないか、咬み合わせがずれていないか、下顎の位置がずれていないか確認するため、歯科医院を受診しましょう。

3.不正咬合の予防

予防ということは、病気の原因を明らかにして、その原因を早期に除去することによって病気の発症を阻止することです。実際の矯正治療では、初期の異常に対する早期の治療が不正咬合の予防処置と考えられていると言えるかもしれません。28本全ての永久歯が萌え揃った咬み合わせを、歯並びの完成と考えれば、その前段階である乳歯だけの歯並び時代や、その延長線上にある乳歯と永久歯が混ざった段階の歯並びでの、初期の軽度の咬み合わせの異常を早期に治療して、その進行を阻止することが、予防的な矯正治療と解釈することができます。したがって、それらの時期における初期の不正を判別するために注目しなければならないこととその処置法を説明します。

3-1.乳歯だけの歯並びの時期

3-1-1.咬み合せの異常があるか

咬み合わせが不安定で正しく咬み合っていなければ、下顎がずれて上下の顎の関係が悪くなることがあります。例えば受け口である前歯の反対咬みがあると、咬むたびに下顎を前に誘導して受け口がどんどん悪化して行く場合があります。また、上顎の歯並びの幅が狭い狭窄歯列弓(きょうさくしれつきゅう)だと、咬む時に下顎を横にずらさないと咬めない状態になり、これが奥歯の反対咬みである交叉咬合(こうさこうごう)の原因になります。この場合は上顎の歯並びの幅を広げる治療で咬み合わせを安定させて、奥歯の反対咬みを治します。上下の歯並びを咬み合せた時に全体がバランスよく咬めていなくて、どこか一か所だけ上下の歯が強く当たってしまう場所がある場合、顎の成長に悪影響を与えるためできるだけ早く対処をしなければなりません。

3-1-2.乳歯の虫歯があるか

乳歯の歯並びの時期を管理する場合、まず注意しなければならないことに虫歯の問題があります。乳歯の虫歯は食べ物を咬むことの妨げになり、それがひいては不正咬合をの原因になるいうことを理解しなければなりません。

乳歯に虫歯がある場合、治療が行われているか

乳歯の虫歯の治療は、食べ物を咬むことができる能力の回復が、十分行われていなければなりません。虫歯の完全な治療は当然ですが、それと併せて隣りの歯との正しい位置関係と、上下反対側の咬み合う歯との正しい咬み合わせ関係になる様な、治療を行わなくてはなりません。例えば、第二乳臼歯(だいににゅうきゅうし)と呼ばれる6歳臼歯の手前に萌えている奥歯の大きな乳歯が虫歯になり歯の形が崩れてしまった場合、後ろの6歳臼歯との間に隙間があると、6歳臼歯は第二乳臼歯が虫歯でなくなってしまった部分の隙間に、手前に倒れるようにして移動して、第二乳臼歯の後から出てくる永久歯が萌える隙間が無くなってしまいます。ですから、第二乳臼歯が虫歯になってしまった場合は、後ろの6歳臼歯が前に倒れて移動しないように、歯の形を6歳臼歯との隙間が埋まるように完全に回復しなければなりません。

3-1-3.乳歯の歯並びから、矯正治療を始めた方が良い歯並び

矯正治療は7~8歳頃、2番目の永久歯の前歯が萌える頃から開始することが望ましいことが多いです。しかし、乳歯だけの歯並びの時期から矯正治療を始めた方が良い場合もあります。受け口、下顎が横にずれて咬んでいて顔が左右非対称になっている、奥歯の咬み合わせが反対咬みになっている(下の奥歯が上の奥歯よりも頬側にある)、奥歯で咬み合った時に上下の前歯が咬んでいない開咬(かいこう)、などがあります。これらの歯並びの共通点は、原因のほとんどが口呼吸(こうこきゅう)と舌の癖だということです。歯並びが悪くなる主な舌の癖には低位舌(ていいぜつ)、異常嚥下癖(いじょうえんげへき)があります。低位舌とは舌が低い位置にあり常に下の前歯を押している状態で、受け口の原因になります。異常嚥下癖とは食べ物を飲み込む時に、上下の前歯の間に入り込む様に舌を前に出しながら飲み込む癖のことで、舌によって上下の前歯が押し込まれて咬み合う位置まで萌えることができず、これが開咬(かいこう)の原因になります。治療法は、歯並びのずれや顎のずれの程度によってかなり異なりますが、原因となっている癖を見極めて治すということをしない限り、矯正治療で歯並びを綺麗に治しても元通りの悪い歯並びが再発してしまいます。

3-1-4.歯並びが悪くなる生活習慣があるか

「2-2.不正咬合の原因」のところで述べましたが、不正咬合を予防するためには、不正咬合の原因となる悪い生活習慣や癖を無くす、取り除くということが大切です。歯並びが悪くなる生活習慣を続けている限り、矯正治療をしても不正咬合が再発してしまうのです。矯正治療を終了した後の綺麗な歯並びを長期間安定させるためには、歯並びが悪くなる生活習慣をしないということが非常に大切なのです。

3-2.乳歯と永久歯が混合している歯並びの時期

3-2-1.過剰歯(かじょうし)があるか

過剰歯というのは、文字通り余計な歯のことです。過剰歯が存在する部分の歯並びは、大いに悪影響を受けます。よくあるものとして、上の前歯の間に出現する過剰歯は、前歯の歯並びを乱れさせたり、前歯がすきっ歯になる原因になります。これはX線写真によって早期に発見することができます。口の中に萌えた過剰歯はもちろん早い時期に抜歯しますが、顎の骨の深い所に埋まっている過剰歯は、すぐに手術をして抜歯しなければならないということではありません。歯科医院で定期的に観察を続けて、周りの歯に悪影響を与えそうだと判断された時点で抜歯すれば良いのです。

3-2-2.歯の大きさや形の異常があるか

歯の大きさの異常には、巨大歯(きょだいし)と矮小歯(わいしょうし)があります。しかし、実際には歯の大きさそのものよりも顎の大きさと歯の大きさを相対的に考えなければなりません。歯の形の異常についても同様のことが言えます。

3-2-3.上下の歯の前後的な咬み合わせ関係

出っ歯や受け口という上下の前歯の位置関係に影響します。上下の前歯の位置関係の異常が予想される状態と矯正治療について説明します。

歯の先天性欠如(せんてんせいけつじょ)があるか

歯の先天性欠如とは生まれつき歯の数が少ないことを言います。これはX線写真を撮ることによって早期に発見できます。特に永久歯の先天性欠如の場合、永久歯が不足している部分を最終的にどのように治療するかを考えなければなりません。入れ歯、ブリッジ、インプラントなどの人工的な物で咬み合わせを作るか、矯正治療で歯を動かして永久歯が足りない部分の隙間を閉じるか、2つの方向性が考えられます。これらの決定には、先天性欠如の部分と残りの歯の大きさのバランスが関係します。左右片方の領域で、上顎の歯が下顎の歯よりも1本少ない場合は、上顎の奥歯を前に詰めてきて隙間を閉じるがほとんどです。上下の歯並びの咬み合わせの関係を考えて、個人個人に合った処置が必要です。

上唇小帯(じょうしんしょうたい)、頬小帯(きょうしょうたい)の過剰な成長があるか

上唇小帯や頬小帯と呼ばれる歯茎と唇の裏の粘膜の間にある筋が成長し過ぎると、その部分の歯と歯の間が開くことの原因になります。昔は早い時期に小帯を切る手術が行われていましたが、現在では歯と歯の間に隙間が空いている部分に、隣りの歯が完全に萌え出た後になっても、小帯のために隙間が残る場合に限って、手術で切るということになっています。

早い時期に失った乳歯があるか

虫歯によって乳歯を早い時期に失ってしまうことの害については、「2-2.不正咬合の原因」の中で説明している様に、とても重要な問題です。

 

乳歯の前歯を早い時期に失うことは、永久歯の歯並びの事だけを考えればあまり影響ないですが、永久歯が萌えるまでの長期間、一番目立つ前歯に歯が無い状態は子供にとっても精神的に好ましいものではありません。 乳歯の犬歯は顎の成長が不十分な場合や永久歯の前歯の歯の幅が大きな場合に、永久歯の2番目の前歯がその後ろの位置に萌えている乳歯の犬歯の根を吸収して、乳歯の犬歯が早く抜けてしまうことがあります。乳歯の犬歯が早い時期に抜けることによって、前歯の咬み合わせが深くなり、永久歯の犬歯が萌え出る部分のスペースが足りなくなります。

乳臼歯(にゅうきゅうし)と呼ばれる乳歯の奥歯は、上下の歯並びの左右それぞれに2本ずつあります。手前の乳臼歯を第一乳臼歯、その後ろの一番大きい乳臼歯を第二乳臼歯と言います。特にこの第二乳臼歯を早い時期に失うことは、早ければ早いほどその悪影響は大きくなります。第二乳臼歯の後ろに萌えるのは6歳臼歯と呼ばれている第一大臼歯(だいいちだいきゅうし)という歯です。第一大臼歯が萌える前であれば、第二乳臼歯を早くに失う悪影響はさらに大きなります。具体的に説明すると、第一大臼歯は第二乳臼歯に沿って後ろにまっすぐ萌えて、正しい咬み合わせの位置に誘導されるのですが、第一大臼歯が萌える時期に第二乳臼歯を失っていると、第一大臼歯が手前の第二乳臼歯を失った位置に倒れながら萌えて来ることになり、本来第二乳臼歯と入れ換わりに萌えて来る第二小臼歯(だいにしょうきゅうし)という永久歯が萌えるスペースが無くなって、転位歯や埋伏歯になり歯並びも咬み合わせも悪くなってしまいます。歯の萌え換わりの時期にこの様な悪い結果を招かないために、乳歯も虫歯を予防しなければなりませんし、乳歯が虫歯になった時は、早い時期に矯正治療で、永久歯の歯並びが悪くならない様な、予防処置をするが望ましいです。

乳歯の晩期残存(ばんきざんぞん)があるか

晩期残存とは、乳歯が永久歯に萌え換わるべき時期に、萌え換わらずにそのまま残った状態のことを言います。

乳歯を晩期残存させる原因としては、以下のものがあります。

1)乳歯が抜ける時期に起きた異変
2)乳歯の根の吸収の遅れ
3)乳歯の根の吸収の仕方の異常

特に乳歯の中で一番大きな第二乳臼歯の晩期残存は、永久歯が萌えるスペース不足になり、その結果永久歯の歯並びや咬み合わせが悪くなる、永久歯が埋伏歯になるなどの原因になることが多いです。乳歯の晩期残存がある場合は、永久歯に悪影響を与える前に晩期残存の乳歯を抜歯するか、または永久歯が乳歯にひっかかって、正しい位置に萌えることができない状態になっている場合は、乳歯を削って永久歯の萌える方向を誘導するということを行います。

永久歯の萌出遅延(ほうしゅつちえん)があるか

乳歯の根の吸収が遅れることによって、永久歯が萌えるのが遅れる場合や、上の前歯に時々現れる根が曲がった形になる異常があると、歯が萌える時期が著しく遅くなると言った場合があります。主に乳歯への外傷などによって、永久歯になる歯胚(しはい)が損傷を受けたり、歯胚が回転することが原因で起こります。重度の場合には直角に近く歯の根が曲がり、萌えるのも遅れたり、異常な位置に萌えたりします。重度に根が曲がった歯の場合は、矯正治療によって萌えさせることができても、理想的な歯並びや咬み合わせまで歯を動かすことはできないことも多いです。

まとめ

歯並びの悪さが原因で起きる様々な問題から、歯並びを悪くしないための予防法までご紹介いたしました。

少しでも気になったり不安に思うことがあれば、歯科医院を受診してみるとよいでしょう。

宮島悠旗
Author: 宮島悠旗(歯科医師/日本矯正歯科学会 認定医)

著書:国際人になりたければ英語力より歯を”磨け”  世界で活躍する人の「デンタルケア」

広告