矯正治療はなぜ必要?歯並びが悪くなる原因から予防法を矯正専門医が徹底解説

歯の治療

矯正


歯の矯正治療をして歯並びを良くした方がよいとは思っていても、実際にどのような問題が起きるのかご存知でない方も多いのではないでしょうか。

今回は矯正治療の目的から、歯並びが悪いままにしておくと起きる様々な問題。また歯並びが悪くなる(不正咬合といいます)の原因から予防法まで、日本矯正歯科学会認定医が徹底解説いたします。

歯並びの重要性をぜひ知って頂ければと思います。

1.矯正治療の目的

矯正治療の最終目的は正常咬合(せいじょうこうごう)と呼ばれる正しい歯並び、咬み合わせに治すことです。口の中の様々な問題が起きずに、機能的な視点から見て正しく食べ物を食べて飲み込める、正しい発音ができる等の正しい機能が備わるための、理想的な歯並び咬み合わせを正常咬合と呼び、正常咬合に治すことが矯正治療の最終目的なのです。

正常咬合の条件

1)上下の顎の骨が正しく成長し、その位置関係も正常であること。
2)歯の大きさと歯の形が上下の顎の歯、左右の歯においても調和がとれていること。
3)隣り合う歯同士が正しい位置で接触していること。
4)上下の顎の歯が犬歯から後ろの部分では、1本の歯が反対側の顎の2本の歯と咬み合う関係であること。
5)上下の歯並びがU字型で、歯並びの幅のバランスが取れていること。

矯正治療を希望する患者様のほとんどは、歯並びが悪いことによる「見た目の悪さ」を訴えて来院します。

これは、歯並びや咬み合わせが悪いことによって起きる口の機能の障害は、極端な場合を除いて、体は色々なリカバリー機能を働かせため、日常生活ではそれほど不都合さを感じられず、自覚できないためです。

しかし患者様を精密に検査してみると、

咀嚼障害(そしゃくしょうがい:食物を効率良く咬めない状態)
発音障害(はつおんしょうがい:正しい発音ができない状態)
口唇閉鎖不全(こうしんへいさふぜん:口を閉じることができないため、口呼吸になってしまう状態)

など、顎の成長発育の障害をも引き起こしていることが分かります。

したがって矯正治療を行うにあたって、単に不正咬合(ふせいこうごう:正しくない歯並び、咬み合わせ)による審美障害(しんびしょうがい:見た目が悪くなる状態)を治すのではなく、口の機能が正常に働く様な歯並び、咬み合わせに治すということが治療の目的であることを、よく理解していただく必要があります。

1-1.悪い歯並びや悪い咬み合わせによって起きる口の中の問題

1-1-1.虫歯の原因になる

本来歯並びや咬み合わせが良ければ、ご飯を咬む時に食物や口の筋肉が歯に擦れることによって、歯に付いている汚れをある程度流してくれる自浄作用(じじょうさよう)という働きがあります。

しかし歯並びや咬み合わせが悪いとこの自浄作用が障害され、また歯ブラシをしても清掃されにく い部分ができるため、歯の周囲が不潔になり、虫歯になる原因になります。

虫歯により歯の形が崩れれば、今まで隣りの歯や咬み合う歯と接触して保たれていた関係が失われて、隣の歯や咬み合う歯が虫歯になって隙間ができた方に向かって動いてしまい、さらに歯並びや咬み合わせを悪くさせることになってしまいます。

このような部分では、虫歯の治療や歯が無くなった場合の治療が非常に困難になってしまうことも大きな問題です。

1-1-2.歯周病の原因になる

歯並びが悪く歯ブラシによる清掃が十分に行われにくい部分では、歯垢(しこう)またはプラークと呼ばれる磨き残しや、それが固まって石の様になって歯にこびりつく歯石(しせき)がたまりやすく、歯周病(ししゅうびょう:歯槽膿漏のこと)と呼ばれる歯の周りの骨が溶ける病気の原因となります。

また上顎の前歯が前に突出ていることでも、歯によって唇を閉じることが妨げられる状態になり、歯茎が乾燥して歯周病を引き起こします。

さらに前歯の咬み合わせが深い状態で下顎の前歯が上顎の前歯の裏側の歯茎に強く咬みこんでいると、歯茎を傷つけてバイ菌に感染することにより炎症が起きます。

隣り合う歯同士の位置関係が悪いと、食物が歯と歯の間に挟まることにより歯の周りが不潔になり、歯周病の原因になります。

また歯並びが悪いために一部分だけ強く咬んでいる歯がある場合は、その歯の負担が過重となり歯茎が下がったり、歯茎の骨の吸収などを引き起こすこともあります。

1-1-3.歯が傷付きやすくなる

極端に外側に出ている上顎の前歯や、受け口の状態にある下顎の前歯は、運動などの機会に転んだり何かが歯にぶつかったりすることで、歯や歯根(しこん:歯の根)に傷を受けやすくなります。また八重歯の様に歯並びの外側にずれて出ている歯は、口の粘膜を傷つけやすくなります。

歯が萌えるスペース不足のため、埋まったままになった埋伏歯(まいふくし)と呼ばれる永久歯が隣り歯の歯根を傷つけてしまうこともあります。

1-1-4.食物を前歯で咬み切ったり、奥歯で磨り潰したりすることができない

上下の前歯が咬み合わさらない開咬(かいこう)や、極端な出っ歯(上顎前突:じょうがくぜんとつ)、受け口(反対咬合:はんたいこうごう)の場合、明らかに前歯で食物を咬み切ったり、奥歯で食物を粉砕したりする能率が低くなります。

したがって歯並びや咬み合わせが悪いと咬んで食物を粉砕できないため、胃腸の負担が増し胃腸炎などの病気になりやすくなると言われています。

1-1-5.顎関節症の原因になることがある

上顎の歯並びが乗っている顎の骨は直接頭の骨とくっついていますが、下顎の歯並びが乗っている顎の骨は、頭の骨と顎関節(がくかんせつ)と呼ばれる関節で繋がっています。

したがって下顎の位置関係は咬み合わせによって決まっていると言えます。咬み合わせが悪いと下顎の位置がずれて顎関節の部分に負担がかかることによって顎関節症(がくかんせつしょう)の原因になることがあります。

顎関節症とは、

①口を開けたり閉じたりする時に顎関節の部分から音が聞こえる。
②顎関節の部分や周囲の筋肉に痛みがある。
③口を開けられなくなる。

といった症状が出る病気です。しかし顎関節症は咬み合わせ以外にも様々な原因があるため、矯正治療をして咬み合わせを治したら確実に治るとは言えません。

また、成長期に咬み合わせが悪く、極端に顎がずれている状態を放置していると、下顎が左右にずれた場合正面から見た時の顔の形が非対称になってしまったり、下顎が前後にずれた場合出っ歯や受け口の顔の形になってしまうことがあります。

1-1-6.舌や唇の異常な癖の原因になる

舌や唇の運動の異常な癖は、歯並びを悪化させる原因となりますが、また一方では、歯並びが悪いことによる代償的な反応として、意識とは無関係に起きることもあります。

したがってどちらが原因でどちらが結果と明確に判別することは困難ですが、両者の相乗作用で歯並びがより悪化することになります。

例えば上下の前歯が咬み合わない開咬の場合では、飲食物を飲み込む時に上下の前歯の隙間に舌を付き出す異常な飲み込み運動を行ったり、上の前歯が出ている出っ歯の場合では、下唇を前歯で咬む癖がみられ出っ歯をさらに悪化して行く場合があります。

1-1-7.顎の骨の成長障害になる

成長期に咬み合わせが悪く、極端に顎がずれている状態を放置していると、下顎が左右にずれた場合正面から見た時の顔の形が非対称になってしまったり、下顎が前後にずれた場合出っ歯や受け口の顔の形になってしまうことがあります。

顎の骨は遺伝と食物を咬む運動の影響を受けて成長します。例えば、受け口で下顎の前歯が上顎の前歯より前で咬んでいるような場合、上顎の前歯は常に内側への力を受けて、上顎の前方への成長が阻害されてしまいます。

また上顎の歯並びが極端に狭い場合では、左右どちらか一方へ下顎が誘導されて咬むことになり、下顎の骨の左右どちらかへの成長障害により、顔を正面から見た時に非対称になってしまいます。

1-1-8.発音障害

人間は声帯・舌・顎·唇などの運動を組み合わせることで声が発生し、言葉を話すことができます。ですから歯並びが悪いことにより、舌や唇や顎を正しく運動させることができない状態になっていると、発音障害となります。

しかし歯並びが悪い場合でも、舌、唇、顎などの順応により、異常と分かるような発音障害が起きない場合もあります。

歯並びが悪いことによって起きる発音障害は、母音に比べて子音の方が影響を受けやすいということが分かっています。

出っ歯の歯並びや咬んだ時に上下の前歯が咬み合わずに隙間ができてしまう開咬という咬み合わせでは、両唇音(p, b),歯音(s, z)を、受け口の咬み合わせでは狭母音(i)、両唇音(p, b)、歯音(s, z)、歯茎音(t, d)などを正しく発音することが難しいです。

また口蓋裂(こうがいれつ)の患者様では、口と鼻腔の間の閉鎖が不完全なため、発音する時に鼻に抜ける音になります。口蓋裂(こうがいれつ)とは、生まれつき上顎に裂け目が生じた病気をいいます。口蓋(こうがい)とは、口と鼻腔との境目の組織のことを言います。

1-2. 悪い歯並びや咬み合わせによって起きる心理的な影響

医療技術の進歩、医療制度の充実に伴い、医療は単に生命維持の手段ではなく、健康維持、健康増進の手段としての役割が大きくなってきています。健康とは身体的ばかりでなく精神的にも最適な社会生活を営める状態であり、現在の医療は、心の問題を度外視して考えることはできません。

笑った時に相手に悪い歯並びが見えるというのは、一般的には「恥ずかしい」と感じる方が多いようです。歯並びの悪さがあるために、人に笑顔を見せることがコンプレックスになると、心理的には自分に自信が持てなくなるため、他人とのコミュニケーションが消極的になり、性格が暗くなってしまう、潜在的にもその様に感じている方は意外にたくさんいらっしゃいます。

歯並びが悪いことによる心理的影響と矯正治療の心理的効果については古くから関心が持たれてきました。

例えばKlima, R.J. (1979)らは矯正治療患者に対し調査を行い、特に受け口の患者では自分の見た目に対する評価が低かったと報告しています。土川ら(1982)は患者自身が歯並びの悪さをどのぐらい感じているかを数量化したところ、年齢が進むにつれて歯並びが気になるという意味を示す数値が大きくなることから、矯正治療について心理面では年齢が進んでから矯正治療を行う場合の方が効果があるという報告をしています。

1-3.体と顎の成長評価

1-3-1.矯正治療と特に関連した成長発育の評価方法

矯正治療の領域で患者様の成長発育の評価を行う場合、まず全身的な成長と顎の成長の関連で、身長·体重の年間増加量、思春期性最大成長期の評価、骨年齢の評価などを行うことがあります。

次に顎、顔面、頭の骨の成長の評価として、上下の顎の骨の三次元的な成長の分析をします。歯や歯並びの成長の評価として、歯や歯の根の形の状態、歯の萌える時期、乳歯が永久歯に萌え換わる時期、乳歯の歯並び、全て永久歯に萌え換わった後の歯並びの成長状況の診査などが必要になります。

その他、口や顎の運動能力の成長(成熟)という面から、飲み込みの型、口を開けたり閉じたり食物を咬む時の顎の運動機能、顎の関節部分の運動などの発達状況の評価も必要となります。

平均の成長と個々の成長

各患者様の身長等の成長を一定期間記録した資料を使って、各年齢における身長の平均値を連ねて、患者様の全身的な成長を通して顎の成長の程度を評価する方法です。しかし、患者様はそれぞれ異った遺伝子や生活環境から顎や歯の成長に影響を与える原因を持っているので、当然のことながら患者様個人個人の成長は平均成長とは完全には一致しません。

体全体で見た成長と歯や顎の部分で見た成長

体全体と顎の部分を比べて成長を評価する時に矯正治療で最も大切なのは、身長と下顎の骨の長さの関係から、成長変化を評価することです。上顎の骨についても、周囲の顔の骨と比較して成長を評価します。そして、上顎と下顎の成長のバランスを評価します。

1-3-2.矯正治療をする上で成長を利用する意義

顎·顔・頭の骨と歯や咬み合わせの異常の診断をすることで、矯正治療の治療方針を決定することができます。

矯正治療の中には、成長が完了した成人を対象とすることもありますが、思春期成長前や思春期成長中の患者様の場合、顎の成長途上にありますから、今後に残された成長をいかに治療に利用できるか、または矯正治療によりいかに成長をコントロールできるかをはっきりさせることが、矯正治療にとっては大切な要素です。

つまり矯正治療をしようとしている患者様の顎が、平均的な成長をするのか異常な成長をするかの見極めが大切であり、そのために成長に関する診査結果の評価が利用されます。

また、顎・顔の骨の成長評価は、成長を矯正治療に利用するだけでなく、矯正治療を始める最適な時期を決定するためにも効果を発揮します。さらに、矯正治療後の不正咬合の再発の恐れを予測するためにも、患者様のその時点での顎·顔の骨の成長が、成長の全過程のどの時期にあるのか(思春期性の成長旺盛な時期の前後どちらにあるのか、あるいは成長は既に完了しているか)を認識していることが必要です。

ここで身長、体重の成長という点をとりあげたのも、顎·顔の骨の成長が身長、体重の増加状況と関連があるからなのです。

日置らは身長、体重と顔を計測にした研究の中で、

①男子の身長の増加率において、思春期成長がピークに達する時期は13歳頃で、女子は1~2年早く11~12歳頃である
②身長の増加がピークに達した1~2年後に顎·顔の骨の成長のピークが起こる、
③この思春期に起こる身長と顎·顔の骨の成長のピークとの関連は、顔の高さにおいては鼻より下の顔の下半分、顔の深さでは上顎の部分と顔の下部に著明である
④この思春期性成長のピーク以後は身長と顎・顔の骨の大きさの増加率は減少する

と述べています。

また、松本らは身長、体重と頭部X線規格写真(矯正治療用の横顔のX線写真)による顎・顔・頭の骨の成長との関連を研究した報告の中で、「身長の高さと下顎の骨の大きさとの間に深い関係性が認められた」と述べています。

以上の様な全身的な成長と顎の成長との関連性が、矯正治療行う時になぜ身長、体重の計測を行うかということに対する大きな理由なのです。

1-4.口の機能の成長

口の機能の中でも食物を咬む咀嚼(そしゃく)、飲食物を飲み込む嚥下(嚥下)、発音など下顎の運動を必要とするものは、矯正歯科的に重要な機能であり、これらの機能はお互いに密接に関連しながら行われています。

赤ちゃんは出産前に、神経や筋肉は体全体で同じ様に発育するわけでなく、特に生命の維持に必要な機能、つまり呼吸、吸う、飲み込むといった運動は手足の領域で先立って発育します。

ヒトの胎児は14週までに唇に刺激が与えられると舌が動き、特に上唇への刺激があると口を閉じ、時に飲み込み運動も起こさせます。

胎生29週では、口の中を刺激すると吸い付き運動を行うが、 32週までは吸い付きならびに飲み込み運動は完全には成熟していません。

新生児(生後4週間までの赤ちゃん)の口や顔の領域の感覚は非常に発達しており、指先よりロ唇や口腔内の方がはるかに高度に発達しています。

この新生児での口の機能の発達は、部分的に触れられた刺激、特に唇や舌の先端部への刺激によって誘導されます。また、その時の舌は上下の歯茎の間に位置し、時には、さらに前方の上下に唇の間に挟まれています。この位置で、舌は外からの刺激を受け入れる門戸の役割を果たしています。

1-4-1.咀嚼(そしゃく)

咀嚼とは、食物を咬み砕き、すりつぶし、唾液とともに食べ物の塊を作るための消化の一過程であり、次の様な意味があります。

1)食物を粉砕し消化を助ける。
2)食べ物の塊を作って飲み込みを簡単にする。
3)消化液の分泌を促進する。
4)顎や口の健全な発育や健康状態を保つことに役立つ。
5)心理的な咀嚼したい欲求を満足させる。

咀嚼に関連する部分は、歯、歯根膜(歯の根の周りを覆っている膜)、舌、唇、頰、硬口蓋粘膜(口の中の天井の前方から約2/3の部分)、咀嚼筋(口を開けたり閉じたりする筋肉)、唾液腺(つばを作って、放出する部分)、顎関節などの部分の複雑な神経の繋がりにより調節され、咀嚼がスムーズに行われる様に協力して調整して働いています。

そしてこの動作は主に無意識的な反射で行われ、時に意識的に行われます。呼吸、舌の位置、飲み込み、吸い込み、くしゃみ、嘔吐(おうと)などは生命維持のため、すでに新生児において無意識的な反射として存在しています。

その中で吸い付き反射は、咀嚼の前段階に当たりますが、幼児性の吸い付き(授乳)から段階的に発達して咀嚼が存在するものでなく、むしろ歯が萌えることによって、咀嚼という全く新しい機能の発達をしたものなのです。

この様に咀嚼ができるようになるために最も大切な要因の一つは、新しく萌えてきた歯の感覚です。したがって、下顎の位置を制御する筋肉も、上下の前歯の咬み合わさる刺激をきっかけに発達します。

上下の前歯の乳歯が萌えている時、上下の前歯が接触すると、咀嚼のために働く筋肉は歯の萌えるのと伴に発達して運動できるように発達して行くと言われています。

また初期の咀嚼運動は不規則ですが、乳歯の歯並びが完成することで、個人の咬み合わせのパターンで安定するようになります。

幼児が咬み合わせ運動をする時には、顎関節、歯根膜、舌、口の粘膜の筋肉の感覚で誘導されて行われます。もし、この時期に乳歯が生まれ付き無い部分、歯の萌える方向の異常、虫歯が存在する場合、将来の咀嚼パターンに変化が起こることは避けられないと考えられます。

乳歯だけしか萌えていない時期が過ぎた後、6歳臼歯と呼ばれる奥歯が萌える時が、将来その人が成人になった時の咀嚼パターンの基礎を作り始める時期であり、また小学校高学年の頃に犬歯とその後ろ2本の小臼歯という歯が萌え換わる時が、咀嚼リズム、パターンの完成する時期となります。

嚥下(えんげ) とは、咀嚼された食べ物の塊が口から咽、食道を通って胃に送り込まれる飲み込み運動のことです。

乳児が授乳や流動食を嚥下する場合、嚥下は本能的なもののみでまだ成人の嚥下の形とは違います。出生後6ヵ月を過ぎると、前歯が萌えることで、初めて上下の歯同士が咬み合わさることができ、口を開け閉めする運動の正確な位置が決まり始めます。次に乳歯の奥歯が萌えて、奥歯で食べ物を咬んで磨り潰す咀嚼運動の習得が始まると、成人と同じ嚥下の形が身に付いてきます。

乳児の時期に吸い付き運動をしていた舌や頬の筋肉は、成長に伴って乳児の時期特有の本能的な機能を忘れて解放されることにより、繊細で複雑な会話や表情を表わす役割を習得し始めます。

嚥下の形が幼児から成人の形の嚥下に変化する時期は、乳歯が萌えて来る時期の中で数か月以上かかります。つまりこの時期に、咬み合わせがずれていて、上下の前歯が咬み合っていないと、正しい舌の動き、正しい頬の筋肉の動きが備わらず、ひいては正しい嚥下の形が備わらないまま成長が進んでしまい、歯並びや咬み合わせが悪くなり、さらに食べ物を正しく咬む咀嚼もできなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

次の3つの特徴を満たしていれば、成人の正しい嚥下の形と言えます。

1)飲み込む時に上下の歯が咬み込む。
2)舌の先の部分は、上の前歯より上の口の中の天井部分の粘膜に押し付けられ、上の前歯に当たらない場所に位置する。
3)飲み込む時上下の唇に力は入っていないで自然に閉じた状態になる。

1-4-2.発音

発音とは、言語の音声を発することで、呼吸動作による気流が言語音のエネルギー源になります。ですから歯並びが悪いことにより咬み合わせがずれると、顎、舌、頬、唇の筋肉を正しく運動させることができなくなることにより、空気の流れが乱れるため、正しい発音をすることが難しい状態、もしくは正しい発音をすることができない状態になります。

2.不正咬合(ふせいこうごう)

正常咬合に対して、歯並びや咬み合わせに問題がある状態を不正咬合と呼びます。不正咬合は虫歯や歯周病(歯槽膿漏)と密接に関連する、顎の成長発育に悪影響を与える、咬み合わせの異常により食べ物を上手く咬むことができないことにより胃腸に負担がかかる、さらに進んで顎関節症(がくかんせつしょう)の原因にもなる、ということが分かっています。

このようなことから、矯正治療は単に歯並びを綺麗にする治療だけではなく、全身の健康を守るために必要な治療なのです。

2-1.不正咬合

単純に1つの遺伝や生活習慣から不正咬合になるわけではなく、体の中や生活環境の問題が複雑に影響し合った結果、不正咬合という状態になっているのです。不正咬合に影響するものは、遺伝、生まれつきの成長の異常、出生後の環境的なものがあります。

  • 男女で不正咬合の割合は違うのか?

歯の大きさには、明らかな男女差がありますが、上下の顎の全ての歯について男子の方が女子よりも大きく、歯並びの土台の部分の顎の骨の大きさも、男子の方が大きいため、不正咬合の割合に男女で差はありません。

  • 年齢によって不正咬合の割合は違うのか?

不正咬合は、乳児の乳歯だけの歯並びの時期、幼稚園から小学生にかけて乳歯と永久歯が混ざっている歯並びの時期、中学生以降の永久歯列だけの歯並びの時期、と年を重ねるにつれて増加します。

  • 人種による違いは?

欧米人と日本人では頭の骨の形が違います。欧米人は頭の形が前後的に長い人が多いのに対して、日本人は頭の形が前後的に短い人が多いという特徴があります。それに伴って、多くの欧米人は歯並びの土台の部分の顎の骨の大きさも長く、多くの日本人は歯並びの土台の部分の顎の骨の大きさも短いです。

そのため日本人では欧米人よりも歯が顎の骨に並ぶスペースが足りない場合が多く、歯並びが悪くなりやすい。矯正治療をする場合に日本人は抜歯しないと治らないケースが多いのもこのためです。また日本人に欧米人よりも受け口が多いのも、日本人は頭の骨が前後的に短い人種であるためとも言われています。

  • 遺伝による影響は?

歯の形の特徴は遺伝の影響を受けます。よくある前歯の形の異常は、2番目の前歯の形が細い形になったり、小さい大きさになったりすることがあります。歯の形の異常とは別に、永久歯が生まれつき少ない「先天性欠如」というものがあります。先天性欠如になりやすいのは2番目と5番目の永久歯ですが、この先天性欠如も遺伝が影響します。

上顎の骨の位置が前にあり下顎の骨の位置が後ろにある出っ歯な骨格(上顎前突:じょうがくぜんとつ)や、上顎の骨の位置が後ろにあり下顎の骨の位置が前にある受け口の骨格(下顎前突:かがくぜんとつ)も遺伝の影響を受けやすいと言われています。

  • 歯並びが悪くなる癖

指しゃぶり、唇を咬む癖、舌を前歯に挟む癖、食べ物や飲み物を飲み込む時に舌を前に出す癖、などの癖は不正咬合と関係が深いことが知られています。

  • 生活環境の変化による影響は?

現代人は古代人と比較すると、顎の骨は縮小しています。そのため歯に対して歯が並ぶ土台部分の骨の長さが小さくなっていて、歯並びの前後にずれて歯が萌えている乱杭歯(らんぐいば)状態が多くなっています。特に最近子供は軟らかい食べ物を食べる習慣のため咬む能力が低下し、顎の骨の縮小化が進み、上顎の犬歯の八重歯、乱杭歯状態、歯が萌える隙間が無くて永久歯が萌えられず埋まったままになってしまう埋伏歯が増加しています。

 

このような不正咬合があると、虫歯や歯周病になりやすく、その結果咬み合わせが崩れてしまいます。

また近年若者でも問題となっているのは顎関節症です。症状としては、口を開けられなくなる開口障害(かいこうしょうがい)、顎が痛い関節痛(かんせうつう)、口を開け閉めした時に「カクッ」「ガリガリ」など音が聞こえる関節雑音(かんせつざつおん)などがあります。

これらは幼児期から軟らかい食品ばかり食べていると、顎の能力が低下し顎関節(がくかんせつ)の部分が発達しなかった可能性があります。

咬み合わせの異常や顎関節症が進行している現在、予防と対策が望まれ、硬い線維質に富む食品など咬む習慣の指導をするなども含め総合的な医療体系を確立しなければなりません。

2-2.不正咬合の原因

不正咬合は主にヒトの成長の過程で現れてくるものですが、ヒトの成長は遺伝と環境の影響を大きく受けます。遺伝子は親から子へと伝えられ、さらに、胎児期を含め様々な環境の影響も受けることになります。

2-2-1.遺伝的原因

ヒトは両親からの遺伝子の働きにより決定された特徴を受け継ぎ、それが不正咬合の原因となる場合があります。下顎が前に出ていることによる受け口、上顎が前に出ていることによる出っ歯、上の歯の真ん中の歯の間に隙間が空いている正中離開(せいちゅうりかい)、歯と歯の間に隙間がある空隙歯列弓(くうげきしれつきゅう)、上顎の左右の前歯の捻じれ翼状捻転(よくじょうねんてん)、前歯の咬み合わせが深い過蓋咬合(かがいこうごう)、上顎の奥歯が下顎の奥歯の内側に入って奥歯の咬み合わせが反対咬みになっている咬み合わせの状態の交叉咬合(こうさこうごう)、咬んだ時にも上の前歯と下の前歯の間に隙間があり前歯が咬み合わない状態の開咬(かいこう)、歯の大きさや形、部分的に歯が無くなる部分無歯症(ぶぶんむししょう)=先天性欠如歯(せんてんせいけつじょし)なども遺伝が関与するとされています。

2-2-2.環境的原因

ヒトは母体内にいる時期から、出生後は直接的に様々な環境の影響を受けます。こういった環境的要素が働くことにより、遺伝的な特徴にも変化が及ぼされます。環境的原因のうちで、不正咬合の原因と考えられるものが、母の胎内にいる時期にあるものを先天的原因(せんてんてきげんいん)、出生後にあるものを後天的原因(こうてんてきげんいん)と呼びます。

2-2-2-1.先天的原因(せんてんてきげんいん)

胎児の期間に生じるあらゆる不正咬合の原因は、全てこの中に含まれる。胎児の期間に受ける影響には、子宮内での環境(羊水の減少、羊膜の病変など)、母体の健康状態や栄養状態(高熱病、アルコール、タバコ、薬物の影響など)などがあり、不正咬合を伴う先天的奇形を引き起こします。しかし、遺伝によるものか、あるいは胎児の期間中に発生する環境的な原因によるものであるかを明瞭に区別することが難しい場合もあります。

1)先天異常(せんてんいじょう)
胎児の期間中、受精卵から複雑な組織に発展する間の異常によって起きる不正咬合ですが、遺伝によるものか否かを明確に区別することが困難な場合もあります。

2)唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)
原因として母体のリボフラビン(ビタミンB2)の欠乏、つわり、風疹、また遺伝的要素も関係していると言われています。唇顎口蓋裂は、顎の骨の裂け目に歯の捻じれ、萌える方向の異常、埋伏が起きるという特有な不正咬合の状態を示します。また、唇裂の場合は上唇を閉じられないことによる上の前歯への外側からの圧の不足により、上の前歯が外向きに傾いて出てくることがあります。唇顎口蓋裂の手術は生後3か月から1年頃にかけて早期に行われることが多く、手術の傷跡の影響で上顎の成長が抑えられて、その結果上顎の歯並びの幅が狭くなって、上顎の歯並びが前歯や奥歯の部分で下顎の歯並びより内側に入ってしまう反対咬合などを引き起こすことが多いです。

3)鎖骨頭蓋異骨症(さこつとうがいいこつしょう)
鎖骨の形の異常または完全に鎖骨が無い、また頭蓋骨の形の異常を主な症状とする生まれつきの病気で、遺伝が原因のものが多いです。上顎の骨の成長が抑えられて小さくなることで、下顎が前に出る受け口の咬み合わせになる、永久歯が萌えるのが遅くなる、または萌えずに埋まったままの状態になる埋伏になる、と言われています。

4)脳性麻痺(のうせいまひ)
頭の骨の中の病変や障害の結果生じた脳の運動を司る部分の障害で、運動麻痺を起こします。それによって食べ物を咬む、飲み込む、呼吸、発音といった機能の障害を引き起こし、不正咬合の原因になると言われています。

5)歯の数の異常
a)欠如歯(けつじょし)
歯の数が足りないことにより、隙間がある歯並び“すきっ歯”の原因となります。上下とも左右2番目の前歯、5番目の歯、そして8番目の歯である親知らずが欠如歯としてなくなることが多いです。
b)過剩歯(かじょうし)
上顎の左右1番目の歯の間に多く見られ、その部分が“すきっ歯”となり歯並びが悪くなる原因になります。
c)歯の形の異常
正しい咬み合わせ正常咬合に治すための要素として、歯の正しい形が必要です。歯の形の異常があると正しい咬み合わせができなくなります。
d)巨大歯(きょだいし)
上顎の前歯に多くみられ、出っ歯や色々な不正咬合を引き起こします。
e)矮小歯(わいしょうし)
上顎の2番目の前歯に小さい細い歯としてみられることが多く、歯が細い分歯並びが小さくなることによる問題や歯と歯の間に隙間ができる問題が起きます。
f)癒合歯(ゆごうし)、癒着歯(ゆちゃくし)
乳歯に多くみられ、下顎の前歯に出現率が高いです。乳歯の癒合歯の場合、その後から萌えて来る永久歯が、本来2本必要なところ1本しかない場合が多いです。

6)口の中の粘膜、舌、小帯(筋)の形の異常
口の中の粘膜、舌、小帯(筋)の形の異常は、歯並びに内側外側からかかる力の均衡を崩し、不正咬合を引き起こす原因になります。

大舌症(だいぜつしょう)

舌が極端に大きい。歯並びの内側から大きい舌の圧力がかかるため、歯全体が唇や頬側に移動してしまう結果、隙間のある歯並びや上下の前歯が咬み合わない開咬(かいこう)になってしまうことがあります。

小舌症(しょうぜつしょう)、無舌症(むぜつしょう)

舌が極端に小さい、または舌が無い。この様な人はかなり稀ですが、歯並びの内側から舌の圧力がかからないため、歯並びが狭くなり、乱杭歯など不正咬合の原因になります。

c)唇の異常
上唇が短い場合や口の周囲の筋肉の緩みによる上下の唇のめくれが見られる場合、口の力を抜いている状態でも上下の唇が接触せず、唇から上下の前歯を内側に押す圧力がかからないため、前歯が前に出てくる原因になることがあります。

胎児の栄養不足や特殊な病気
胎児の栄養不足は、体全体にも部分的にも影響を与えます。顎の骨の成長不良を起こし、顎の骨が小さくなることで歯並びが悪くなる原因になると言われています。また、胎内感染による先天性梅毒(せんてんせいばいどく)は、顎の非対称、開咬、唇顎口蓋裂、上の前歯の形の異常(ハッチンソンの歯)などの原因になると言われています。

2-2-2-2.後天的原因(こうてんてきげんいん)

生まれた後に発生した原因によって、不正咬合を起こすもので、全身的な原因と部分的な原因があります。

全身的な原因

歯や顎の骨や顎の筋肉の成長中に全身的な病気があると、顎の骨や歯や歯茎などの異常を起こし、その結果不正咬合になることがあります。

■ ばい菌やウイルスが原因の病気

結核(けっかく)
成長が旺盛な時期に感染すると、顎の成長に障害を与える結果、不正咬合を引き起こすと言われています。

ポリオ(流行性灰白髄炎、脊髄性小児麻痺)
ポリオウイルスの感染によって乳幼児に発症する病気です。その主な症状は筋肉の麻痺で手足に多いですが、顔にも麻痺が起こり下顎の成長に障害を与えることがあります。

高熱が出る病気
高熱出る発疹性の病気(麻疹(はしか)、水痘(みずぼうそう)、猩紅熱(しょうこうねつ)など)は、成長途中の骨の組織に影響を与え、顎の骨の変形や歯の形の異常を引き起こすことがあります。

■ 栄養不足
生まれた後の栄養不足は、全身部分的に体に影響を与え、歯科に関係するところでは顎の骨の成長不良を起こし、顎の骨が小さくなることによって歯並びが悪くなる原因になると言われています。

クル病
骨の形の異常が主な症状の栄養失調による病気で、特にカルシウムやリンが不足した場合に起こり、気候の関係による紫外線の不足もこれを加速します。また骨の代謝に関係が強いビタミンDの欠乏が大きく関係する言われています。この病気は生後約6か月頃に発症しやすく、骨の固さが減少するため歯が咬む圧力に耐えられず顎の骨の変形を起こすと言われています。

ビタミンB2欠乏症
上顎の骨に裂け目があり、口と鼻が繋がってしまう口蓋裂(こうがいれつ)と関連が深いといわれています。

■ 内分泌異常(ないぶんぴついじょう)

骨の成長に関係が深いものは脳下垂体と甲状腺があります。

a) 脳下垂体のホルモン…頭の骨の底の部分にあるクルミ大の小さな器官。前葉と後葉に分かれ最も多くのホルモンを分泌している。前葉からは成長ホルモンも分泌されていて、これは骨の端に働きかけて成長を促します。分泌が悪いと成長が遅れて身長が伸びず、過剰になると背が伸び過ぎる巨人症になります。後葉からは抗利尿ホルモンが分泌されていて、尿の量を調節している。このホルモンが分泌されないと多量の尿が排出され、体内の水分が失われることになってしまいます。末端肥大症(アクロメガリー)は脳下垂体の機能が活発になり過ぎることによって起こるもので、顔面では特に下顎の骨の異常な成長がみられます。

b)甲状腺(こうじょうせん)ホルモン…神経系の働きを高めたり、骨の成長を促したり、色々な代謝を高めたりします。生まれつきこのホルモンが不足すると知能が遅れ、骨の発達も遅れるため、背が伸びなくなってしまいます。過剰に分泌されると、新陳代謝が盛んになり、脈拍が速くなる、汗をかきやすい、食欲は増すが痩せてくるといった症状が現れます。甲状腺の機能障害によって起きるクレチン病は、口の領域で前歯の突出、歯の数の異常などの特殊な症状が現れると言われています。

部分的な原因

全身的な原因が全身的な病気によって起きるものであるのに対して、部分的な原因は歯や顎の骨、口の中の歯茎や舌や頬の粘膜の軟らかい組織に原因があるもの、また舌の動きの悪い癖のように、直接歯や歯並び、顎の骨に悪影響を与えるものです。

■ 乳歯から永久歯への歯の萌え換わりの異常

乳歯から永久歯に萌え換わる順序が大切な要素で、通常上顎では犬歯が最後に萌え換わるため、永久歯が萌えるスペース不足の場合の代表的な歯並びが悪い状態として、犬歯が八重歯になることが多くあります。

乳歯から永久歯に萌え換わる時期に永久歯に順調に萌え換わるには前歯の部分では乳歯の間に十分なスペースが存在すること、奥歯の部分では永久歯が萌える時期まで乳歯が虫歯になったりせずに存在していて、永久歯が萌えるスペースを確保していて乳歯が確保しているスペースより後から出てくる永久歯の大きさが小さいことが必要条件となります。

虫歯などで乳歯が早く抜けてしまった時には、永久歯が萌えるためのスペース不足が起きて永久歯が萌えてきた時に歯並びが悪くなります。乳歯が永久歯の萌え換わりの時期まで残っていたとしても、乳歯の歯並びの時に乳歯と乳歯の間に十分な隙間がなかったり、顎の骨が小さい場合などの原因で、永久歯に萌え換わった時に歯並びが悪くなってしまいます。

小学生の間ぐらいの時期に乳歯から永久歯に萌え換わりますが、この時期に永久歯の萌え換わりの異常を引き起こす様々な原因が含まれているため、最も重要視されなければならないのです。

この時期に自然に乳歯から永久歯への萌え換わりを待っていると、日本人の場合では永久歯の萌える位置の異常が約8割という、とても高い頻度で起きると言われています。

6歳臼歯までの歯並びが完成した後、最後に12歳臼歯が6歳臼歯の後ろに萌えてきます。この時、6歳臼歯の萌えている方向が悪かったり、6歳臼歯の後ろの部分の顎の骨の顎の骨の長さが足りなかったりすると、12歳臼歯の萌え方にも問題が出て咬み合わせが悪くなってしまいます。人によってはその後さらに、親知らずの萌え方が問題になってくる場合もあります。

永久歯の萌え換わりの異常は、萌える時期の異常と萌える位置の異常に大きく分けることができます。

萌出遅延(ほうしゅつちえん)
通常の永久歯が萌える時期より遅れる場合で、そのうち部分的な原因として考えられるものを掲げていきます。

■ 歯胚(しはい)の位置異常
歯胚とは歯の元となる細胞の集まりです。顎の骨の中で、成長中の歯胚に外から力が加わると、歯胚が萌える方向に進まずその場にとどまってしまったり、位置や方向を変えることがあります。その結果、永久歯胚(永久歯の歯胚)の本来の成長が阻げられ、萌える時期が遅れるだけでなく、萌える位置の異常も起こります。

■ 嚢胞(のうほう)の形成

体内で作られた液状のものを含む袋状のものを嚢胞といいます。囊胞により永久歯の萌出遅延が起きてしまいます。

■ 乳歯の晩期残存(ばんきざんぞん)

正常な時期に乳歯の歯の根の吸収が進まないことにより、乳歯が残って永久歯に萌え換わらない状態を晩期残存(ばんきざんぞん)といいます。これもその後から萌える永久歯の萌出遅延(ほうしゅつちえん)、萌える位置異常を起こします。

■ 永久歯が萌えるためのスペース不足

特に奥歯の乳歯を虫歯で早く失うことにより、隣りの歯は乳歯が無くなった部分に傾くため位置異常が起こり、後から萌え換わる永久歯の萌出スペースが不足することで、萌出遅延の原因となります。

■ 過剰歯(かじょうし)や歯牙腫(しがしゅ)
永久歯が顎の骨の中から口の中の歯茎に萌える進路に過剰歯や歯牙腫などがある場合、萌出遅延の原因となります。

過剰歯とは、上下の永久歯の正しい数合計28本よりも多く存在する歯のことです。女性よりも男性に多いと言われています。発生する場所で最も多いのは、上顎の前歯の間でこの場所にできた過剰歯を正中過剰歯(せいちゅうかじょうし)、さらに過剰歯の埋伏歯の場合は正中埋伏過剰歯(せいちゅうまいふくかじょうし)と呼びます。

歯牙腫とは、歯を形作る組織の一部が増殖してしまう良性腫瘍(りょうせいしゅよう)のことです。この病気は、10代20代に多く痛みなどの自覚症状が無いため、発見が遅くなる場合があります。定期検診や虫歯の治療でX線撮影をした時、偶然に発見されることが多いです。治療せずに放置していると、歯牙腫の周囲の永久歯が萌えるのを妨害することによって歯並びが悪くなったり、永久歯が萌えて来ず埋伏歯になる原因になります。

■ 歯肉の肥厚(ひこう)
乳歯が永久歯に萌え換わる交換期を過ぎても、永久歯が萌えない様な場合、歯肉が厚くて硬いことが原因になっているもあります。

■ 萌出位置(ほうしゅついち)の異常
多くの不正咬合の原因は、高い確率で起こる永久歯が萌える位置の異常であり、それを萌出位置異常と言います。

前歯の場合

永久歯の前歯の歯胚(歯と歯の周りの組織の元となる細胞の集まり)が乳歯の前歯の内側に位置している様な場合、永久歯は乳歯が萌えている内側から萌えて、歯並びが前後的に二重の状態になってしまいます。

前歯が前後的にずれて萌えて来た場合は、出っ歯や受け口の様な上下の歯並びの前後的な位置関係の異常を起こすことが多くなります。

犬歯の場合

よく見られる例として、上顎の犬歯の八重歯は、乳歯から永久歯に萌え換わる交換順序と、乳歯から永久歯に萌え換わる期間、先に萌えている6歳臼歯は乳歯が抜ける時に手前にずれて、永久歯が萌えるスペースの減少が起きてしまうことが原因になります。

小臼歯の場合

上下の顎ともに手前から数えて4番目と5番目に相当する永久歯で、犬歯と6歳臼歯の間の2本の小さい歯を小臼歯(しょうきゅうし)と呼びます。小臼歯は捻れて萌える、内側にずれて萌える、内側に傾いて萌えるということがよく起こります。乳歯が虫歯により早く抜けてしまうと、その後の永久歯が萌える位置の異常が起こります。これも乳歯から永久歯に萌え換わる期間、先に萌えている6歳臼歯は乳歯が抜ける時に手前にずれて、永久歯が萌えるスペースの減少が起きてしまうことが原因になります。

大臼歯の場合

上下の顎ともに、6歳臼歯と12歳臼歯と呼ばれる、手前から数えて6番目と7番目に相当する大きい永久歯を、大臼歯(だいきゅうし)と言います。上顎の大臼歯は、捻じれて萌える、外側にずれて萌える、外側に傾いて萌えるということがよく起こります。

下顎の大臼歯は内側にずれて萌える、内側に傾いて萌えるということがよく起こります。乳歯から永久歯の萌え換わりの期間にこれらの問題を予防するためには、虫歯を予防し健全な乳歯の咬み合わせを守ることと、後から萌えて来る永久歯とのスムーズな交換が必要不可欠です。

乳歯から永久歯への誤った歯の萌え換わり

乳歯から永久歯へのスムーズな歯の萌え換わりは、咬み合わせを形成する上で極めて重要なことです。 乳歯は永久歯が萌えるまで、一時的に咬む役目を果たすだけのものではありません。幼少期から小学生時代の体の成長に必要な栄養摂取に始まり、食べ物を咬むことによって顎の骨の成長にも大きな影響を与えます。したがって、健全な乳歯の咬み合わせを守ることは、後から萌え換わる永久歯の萌えるスペースの確保や、永久歯の正しく萌える進路の誘導にも関係します。

歯の萌え換わりに影響を及ぼす要因は、全身的な要因と歯の部分的な要因とがありますが、多くの問題が含まれるのは後者の方です。歯の交換に影響を及ぼすと思われる部分的な要因として、以下のものが考えられます。

乳歯に原因があるもの

a) 乳歯が虫歯になり歯の形が崩れた場合、歯の幅が短くなり、ひいては本来の萌え換わりの時期より早く乳歯が抜けてしまう原因となり、隣りの永久歯が倒れてくる様な移動が起きること、特に6歳臼歯と呼ばれる第一大臼歯(だいいちだいきゅうし)の手前側への移動、傾きなどが起きやすい。その結果後から萌える犬歯や小臼歯といった永久歯の萌えるスペースがなくなり、永久歯が正しく萌えることができなくなります。

b) 本来萌え換わる時期には乳歯の根が吸収されて短くなり、自然に乳歯が抜けるのですが、乳歯が虫歯になり神経にまで感染した場合、その現象が障害を受けて乳歯の根が吸収されて短くならず、正常な乳歯の自然に抜け落ちることがないため、後から萌える永久歯の進路の邪魔をすることで、永久歯が正しく萌えることができなくなります。

c) 乳歯が虫歯になり神経にまで感染して根の先に膿が溜まった状態になることによって、後から萌える永久歯の萌える方向や萌える時期に異常が起こります。

d) 乳歯が虫歯になり歯の高さが短くなると、上下反対側の咬み合っていた歯が伸びてくることにより、後から萌える永久歯が必要な高さまで萌えることができなくなってしまいます。

永久歯に原因があるもの

a) 永久歯の歯胚(歯と歯の周りの組織の元となる細胞の集まり)のできる位置や永久歯が萌え進む方向に異常がある場合は、乳歯の根の位置とずれた場所に永久歯が萌え進むため、乳歯の根が吸収されず萌え換わりの時期に自然に萌え換わることができず、その結果永久歯の萌える方向や萌える時期に異常が起こります。

b) 第一大臼歯(6歳臼歯)が前に傾いて萌えることにより、本来の萌え換わりの時期より早く乳歯の根が吸収して乳歯が抜け落ちる原因となります。

c) 歯肉炎や歯肉肥厚は、永久歯の萌える時期が遅れる原因になります。

d) 永久歯が虫歯や外傷で早い時期に抜けてしまうと、その後ろの永久歯が順に前に傾いてしまうことで、歯が並ぶことができる部分の長さが短くなり、永久歯が萌えるスペースが不足する結果、永久歯の萌える方向や萌える時期に異常が起こります。

e) 永久歯が虫歯や外傷で成長期に抜けてしまうと、単に咀嚼などの機能が低下するだけではすまされません。隣りの永久歯には傾き、抜けた永久歯側への移動が起こり、また咬み合っていた上下的に反対側の永久歯は、抜けた永久歯の方向に延びてきて咬み合わせがずれてきてしまいます。このように隣り合う歯の位置関係が乱れると、食べ物が挟まり易くなり、歯ブラシをしても食べ物の磨き残しが出易くなり、虫歯や歯周病(歯槽膿漏)が発生し易くなります。第一大臼歯(6歳臼歯)がなんらかの理由で抜けて失われると、後ろの第二大臼歯(12歳臼歯)は6歳臼歯のあった手前側に傾き、前の小臼歯は6歳臼歯のあった後ろ側に傾き、永久歯の萌える方向や萌える時期に異常が起こります。さらにこれらの現象は前歯の咬みあわせが深くなる過蓋咬合(かがいこうごう)、上の前歯が前に出て下の前歯が内に入り出っ歯の状態になる上顎前突(じょうがくぜんとつ)などの原因となることもあります。

以上の様に成人に達する以前に永久歯が抜けてしまうと、食べ物を咬む能力低下や発音障害、見た目が悪くなり精神的な影響が出る、虫歯や歯周病になりやすくなり歯の寿命が短くなる、不正咬合の原因や顎の成長の異常をきたす、ひいては健康寿命が短くなるなど、全身的な健康への影響も大きく大きな問題となる。したがって、永久歯が抜けてなくなってしまった場合に対してはすみやかな治療が必要とされます。

唇・舌・口の中の粘膜部分の形の異常

これは遺伝的または先天的原因に属するものであるかもしれませんが、上下の唇の裏と舌の裏の小帯(しょうたい)と呼ばれる筋、舌、唇などの異常が掲げられます。

■ 唇の異常

生まれつき唇の形に異常があると、審美障害(見た目の障害)や発音障害となり、本来の体の機能が妨げられることになります。

■ 小帯(しょうたい)の異常

小帯は上唇の裏(上唇小帯:じょうしんしょうたい)、下唇の裏(下唇小帯:かしんしょうたい)、頬側の粘膜の裏(頬小帯:きょうしょうたい)、舌の裏(舌小帯:ぜつしょうたい)があり、これらの小帯の異常には位置の異常、形の異常、数の異常があります。

小帯の異常があると、発音障害、歯の位置異常、歯周病(歯槽膿漏)、咬み合わせの乱れ、顔の形への影響、そして成人であれば虫歯の治療をした場合の、かぶせ物の安定性が悪くなるなどの障害も起こります。

上の前歯の間の空隙、正中離開(せいちゅうりかい)の原因として考えられるものに、上唇小帯の異常が掲げられます。前歯が萌える時期にみられる歯の隙間は、2番目の前歯あるいは犬歯が萌えることによって、最終的に自然に閉じるものが多いです。しかし、自然治癒を妨げる原因の一つに、小帯の形または位置異常が掲げられます。このような状態の時には小帯を切って取り除く手術が必要となります。舌小帯に異常がみられる時などは、舌の運動障害、発音障害を起こすことがあります。大きさが異常な舌小帯によって舌の機能が低下されたり、また舌小帯が短いまたは癒着する異常である舌強直症の状態でも、舌の運動障害、発音障害を起こすことがあります。時として歯茎近くまで延びている小帯の位置の異常は、歯が萌えるのを妨害したり、歯の周囲に食べ物が残りやすく歯ブラシも難しくなるため、歯周病や虫歯の原因ともなります。いずれの場合でも、小帯の付着部の位置的状態によっては外科的に切除することが必要となります。

■ 舌の異常

a) 無舌症(むぜつしょう)と小舌症(しょうぜつしょう)

先天的に(生まれつき)舌がない場合を無舌症(むぜつしょう)といいいます。食べ物を飲み込む嚥下運動(えんげうんどう)の障害をはじめ、発音障害などが起こります。また小舌症(しょうぜつしょう)は舌の大きさが小さい形の異常で、やはり嚥下運動障害、発音障害などが起こります。舌の形にこれらの異常があれば、歯並び、咬み合わせが形作られる上で、唇や頬の粘膜が歯を押す力を舌が支えてバランスを取ることができないため、歯が舌側に倒れてしまい、咬み合せに問題が起こります。

b) 巨舌症

舌の過剰な成長による形の異常を巨舌症(きょぜつしょう)といいます。舌が過度に大きいことにより特に下の前歯を外へと押し出す力がかかり、前歯の間に隙間ができる空隙歯列弓(くうげきしれつきゅう)、上下の前歯が咬み合わない開咬(かいこう)、下の前歯が上の前歯よりも前に出ている受け口の状態の下顎前突(かがくぜんとつ)などの不正咬合が起こります。

■ 悪習癖(あくしゅうへき)

不正咬合の原因となる悪い癖を悪習癖(あくしゅうへき)といいます。口の中に形態異常が見られることで、それに関連する特有な悪習癖を見い出すこともあります。

a) 哺乳瓶の乳首やゴム製乳首の、適性年齢を超えてからの長期使用

乳首を常に上下の前歯の間で挟むことによって、上顎前突や開咬という不正咬合が引き起こされます。

b) 吸指癖(指しゃぶり)

吸指癖(指しゃぶり)は吸引の程度、持続性などが不正咬合の原因として大きく関係します。この癖に関連する不正咬合としては、上顎の歯並びが狭くなる狭窄歯列弓(きょうさくしれつきゅう)です。さらに狭窄歯列弓による上顎前突と開咬などに発展します。

c) 咬唇癖(こうしんへき)

唇を咬む癖を咬唇癖(こうしんへき)といいます。下唇を習慣的に咬み込んだり、吸い込むことにより、上顎の前歯の前側への傾き、開咬などの原因となります。逆に上唇の場合では反対咬合の原因になることもあります。

d) 弄舌癖(ろうぜつへき)

弄舌癖(ろうぜつへき)と呼ばれるものは、舌の悪習癖の一つで、舌を無意識のうちに必要な運動以外の位 置や方向へ習慣的に運動させる癖です。これは飲み込み運動の時に舌で前歯を押す異常嚥下癖(いじょうえんげへき)と関係が深く、上下の前歯が前側に出て口を閉じることができなくなる上下顎前突(じょうげがくぜんとつ)、開咬などの原因となります。

e) 口呼吸(こうこきゅう)

唇を閉じる筋力不足、慢性的な鼻づまり、アデノイド肥大、鼻中隔彎曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)など鼻の異常があれば、正常な鼻呼吸(びこきゅう)をすることができず、口での呼吸を強いられ、それが習慣的になる状態を口呼吸と言います。強度な口呼吸者では、いつも口を開けているために前歯が前側に出てきて、上下の唇を閉じることが困難となり、歯茎や口の粘膜が乾燥し、免疫力が下がることにより歯肉炎や歯周病を起こしたり悪化させる原因となります。

f) 異常嚥下癖(いじょうえんげへき)

全ての乳歯が20本萌え揃い、乳歯の咬み合わせが完成する頃になると、成人と同じ飲み込み運動が身に付き、食べ物を飲み込む時には上下の歯が接触して咬み合った状態で、歯は舌にも唇にも接触しないのが普通です。つまり唇の周囲の筋肉は食べ物を飲み込む時には、自然に口を閉じる最低限の力だけで、ほとんど緊張しない状態になっているのが正しいのです。 しかし、異常嚥下癖(いじょうえんげへき)が存在する場合には、舌を上下の前歯の間に突き出す様な運動をするため、上下の歯が接触しないので飲み込む瞬間に上下の歯が咬み合うことができず、前に出ようとする舌を抑えるため唇の周囲の筋肉に力が入り強く収縮します。 原因は低位舌(ていいぜつ)と口呼吸(こうこきゅう)です。口呼吸と低位舌は深く関係しています。離乳食の食べさせ方、食事中に飲み物を飲むことによる流し込み食べ、アデノイド肥大、扁桃肥大など、鼻やのどの病気に関連するもの、などが原因で低位舌になり口呼吸になると考えられています。この癖があると歯並びに悪影響を与え、上下の前歯が咬み合わない開咬(かいこう)、下の前歯が外側に押し出される下顎前突(かがくぜんとつ)などの不正咬合になります。また手の指を吸う癖、爪を歯と歯の間にはさみ込んだり、歯で爪を咬みきったりする癖で開咬になってしまうと、それに伴って舌が上下の前歯の間に挟まる様になってしまい、異常嚥下癖になるということも言えます。鶏が先か卵が先か、ということです。

g) 睡眠態癖(すいみんたいへき)

いわゆる寝癖というもので、睡眠時の特定な姿勢のことをいいます。ある種の状態が習慣になると、それが原因で歯並びや顎の骨がずれてしまい、不正咬合になります。例えば掌を頬部や顎部に当てて寝る様な場合、奥歯の歯並びが狭くなり歯並びや咬み合わせが悪くなります。左右どちらかを下にして寝る、うつ伏せや横向きに寝る状態が続くと、顎がずれてしまい不正咬合になるばかりでなく、顔の見た目も非対称に歪んでしまいます。

■ 歯科疾患

a) 虫歯による歯の形が崩れる、虫歯により根だけが残った状態になる、虫歯や歯周病によって歯が早く抜けた場合、隣りにある歯や上下反対側の咬み合っている歯の位置に異常を起こし、不正咬合になります。

b) 乳歯に虫歯があり、根に膿が溜まっている病巣がある場合は、下から萌える永久歯の形成や萌え進む方向に悪影響を与えます。乳歯は萌え換わるからといって虫歯になってもいいという考えは間違いです。

c) 歯周病によって歯の根の周りの骨が弱くなり、上下前歯が咬む力を支えきれず外側に傾き、空隙歯列(すきっ歯)などの不正咬合になります。上下の前歯が外側に傾くと口を閉じれなくなり、その結果口呼吸になります。すると口呼吸はさらに歯周病や虫歯の原因になり、悪循環になって行きます。

■ 顎関節(がくかんせつ)の障害

顎が成長する時期に、外傷や炎症による顎関節症(口を開け閉めする時に音がする、顎関節の部分に痛みがある、口を開けたり閉じたりしにくい)が長く続くと、顎の運動不足も伴って下顎の骨の成長不足が起こり、不正咬合の原因になります。 その時、下顎の片方だけに成長不足が起きると、咬み合わせの異常が起きるでなく、下顎がずれて顔が非対称になってしまいます。

■ 鼻咽腔疾患

アデノイド、扁桃肥大(へんとうひだい)、鼻閉塞(びへいそく)、鼻中隔彎曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)など鼻やのどに異常があると、気道が狭められるため、正常な鼻呼吸が営まれず、口呼吸(こうこきゅう)をするような状態になります。口呼吸が習慣になると、上顎前突(出っ歯)、開咬など様々な不正咬合の原因になります。

■ 歯ぎしり

歯ぎしりの原因は、いまだ全て解明はされていませんが、咬み合せが悪いと歯ぎしりを引き起こすことがあると言われています。歯ぎしりによって強い力が歯に加わることで、歯と歯茎と周囲の骨、咀嚼する時に働く筋肉、顎関節に咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)と呼ばれる体の外からの刺激によってできた傷になります。歯周病と歯ぎしりによる咬合性外傷が合わさると、高度な歯周病に発展し、不正咬合が発生するだけでなく、歯の寿命も短くなってしまいます。

■ 口腔腫瘍

腫瘍とは、世間一般的に言われる「できもの」です。ですから、すべての腫瘍が癌というわけではありません。異常に増えた細胞がかたまっている状態が腫瘍です。腫瘍のうち口の中にできる腫瘍を口腔腫瘍(こうくうしゅよう)と言います。顎の骨の成長期、歯が形作られて、乳歯から永久歯への萌え換わる時期に、顎の骨や口の内の歯茎や粘膜などの軟組織に腫瘍があると、顎や歯の成長を妨げ不正咬合の原因になります。

外傷

体の外からの刺激によってできた傷を外傷(がいしょう)と呼びます。顔面の外傷の場合、歯が欠けたり、歯肉や粘膜や皮膚の傷が見られます。

■ 乳歯への外傷

事故などで乳歯への外傷があると、乳歯が抜けた後に入れ換わりに萌えて来る永久歯の位置異常を引き起こします。それに伴って、顎の骨の成長にも悪影響を与える結果となります。

■ 永久歯への外傷

直接歯に物がぶつかる事故などで永久歯に、歯を失う、歯の脱臼、歯が欠けるなどの問題が生じ、咬み合わせ悪くなる原因となります。 一方、顎や顔面への外傷で、直接歯に外傷が起こらなくても、歯や歯並びを支える顎の骨への影響も見逃すことはできません。骨折の頻度は、上顎より下顎で多く発生します。骨折線上に歯胚が存在している場合、また隣接しているような場合では、歯の萌出障害や位置の異常、下顎の骨のずれなどを起こす危険性があるります。したがって、顔面への外傷は子供、大人の年齢に関わらず、歯や歯並びに与える影響は大きいのです。顔面への外傷があった場合、応急処置を済ませた後は、歯が欠けていたりひびが入っていたりしないか、咬み合わせがずれていないか、下顎の位置がずれていないか確認するため、歯科医院を受診しましょう。

3.不正咬合の予防

予防ということは、病気の原因を明らかにして、その原因を早期に除去することによって病気の発症を阻止することです。実際の矯正治療では、初期の異常に対する早期の治療が不正咬合の予防処置と考えられていると言えるかもしれません。28本全ての永久歯が萌え揃った咬み合わせを、歯並びの完成と考えれば、その前段階である乳歯だけの歯並び時代や、その延長線上にある乳歯と永久歯が混ざった段階の歯並びでの、初期の軽度の咬み合わせの異常を早期に治療して、その進行を阻止することが、予防的な矯正治療と解釈することができます。したがって、それらの時期における初期の不正を判別するために注目しなければならないこととその処置法を説明します。

3-1.乳歯だけの歯並びの時期

3-1-1.咬み合せの異常があるか

咬み合わせが不安定で正しく咬み合っていなければ、下顎がずれて上下の顎の関係が悪くなることがあります。例えば受け口である前歯の反対咬みがあると、咬むたびに下顎を前に誘導して受け口がどんどん悪化して行く場合があります。また、上顎の歯並びの幅が狭い狭窄歯列弓(きょうさくしれつきゅう)だと、咬む時に下顎を横にずらさないと咬めない状態になり、これが奥歯の反対咬みである交叉咬合(こうさこうごう)の原因になります。この場合は上顎の歯並びの幅を広げる治療で咬み合わせを安定させて、奥歯の反対咬みを治します。上下の歯並びを咬み合せた時に全体がバランスよく咬めていなくて、どこか一か所だけ上下の歯が強く当たってしまう場所がある場合、顎の成長に悪影響を与えるためできるだけ早く対処をしなければなりません。

3-1-2.乳歯の虫歯があるか

乳歯の歯並びの時期を管理する場合、まず注意しなければならないことに虫歯の問題があります。乳歯の虫歯は食べ物を咬むことの妨げになり、それがひいては不正咬合をの原因になるいうことを理解しなければなりません。

乳歯に虫歯がある場合、治療が行われているか

乳歯の虫歯の治療は、食べ物を咬むことができる能力の回復が、十分行われていなければなりません。虫歯の完全な治療は当然ですが、それと併せて隣りの歯との正しい位置関係と、上下反対側の咬み合う歯との正しい咬み合わせ関係になる様な、治療を行わなくてはなりません。例えば、第二乳臼歯(だいににゅうきゅうし)と呼ばれる6歳臼歯の手前に萌えている奥歯の大きな乳歯が虫歯になり歯の形が崩れてしまった場合、後ろの6歳臼歯との間に隙間があると、6歳臼歯は第二乳臼歯が虫歯でなくなってしまった部分の隙間に、手前に倒れるようにして移動して、第二乳臼歯の後から出てくる永久歯が萌える隙間が無くなってしまいます。ですから、第二乳臼歯が虫歯になってしまった場合は、後ろの6歳臼歯が前に倒れて移動しないように、歯の形を6歳臼歯との隙間が埋まるように完全に回復しなければなりません。

3-1-3.乳歯の歯並びから、矯正治療を始めた方が良い歯並び

矯正治療は7~8歳頃、2番目の永久歯の前歯が萌える頃から開始することが望ましいことが多いです。しかし、乳歯だけの歯並びの時期から矯正治療を始めた方が良い場合もあります。受け口、下顎が横にずれて咬んでいて顔が左右非対称になっている、奥歯の咬み合わせが反対咬みになっている(下の奥歯が上の奥歯よりも頬側にある)、奥歯で咬み合った時に上下の前歯が咬んでいない開咬(かいこう)、などがあります。これらの歯並びの共通点は、原因のほとんどが口呼吸(こうこきゅう)と舌の癖だということです。歯並びが悪くなる主な舌の癖には低位舌(ていいぜつ)、異常嚥下癖(いじょうえんげへき)があります。低位舌とは舌が低い位置にあり常に下の前歯を押している状態で、受け口の原因になります。異常嚥下癖とは食べ物を飲み込む時に、上下の前歯の間に入り込む様に舌を前に出しながら飲み込む癖のことで、舌によって上下の前歯が押し込まれて咬み合う位置まで萌えることができず、これが開咬(かいこう)の原因になります。治療法は、歯並びのずれや顎のずれの程度によってかなり異なりますが、原因となっている癖を見極めて治すということをしない限り、矯正治療で歯並びを綺麗に治しても元通りの悪い歯並びが再発してしまいます。

3-1-4.歯並びが悪くなる生活習慣があるか

「2-2.不正咬合の原因」のところで述べましたが、不正咬合を予防するためには、不正咬合の原因となる悪い生活習慣や癖を無くす、取り除くということが大切です。歯並びが悪くなる生活習慣を続けている限り、矯正治療をしても不正咬合が再発してしまうのです。矯正治療を終了した後の綺麗な歯並びを長期間安定させるためには、歯並びが悪くなる生活習慣をしないということが非常に大切なのです。

3-2.乳歯と永久歯が混合している歯並びの時期

3-2-1.過剰歯(かじょうし)があるか

過剰歯というのは、文字通り余計な歯のことです。過剰歯が存在する部分の歯並びは、大いに悪影響を受けます。よくあるものとして、上の前歯の間に出現する過剰歯は、前歯の歯並びを乱れさせたり、前歯がすきっ歯になる原因になります。これはX線写真によって早期に発見することができます。口の中に萌えた過剰歯はもちろん早い時期に抜歯しますが、顎の骨の深い所に埋まっている過剰歯は、すぐに手術をして抜歯しなければならないということではありません。歯科医院で定期的に観察を続けて、周りの歯に悪影響を与えそうだと判断された時点で抜歯すれば良いのです。

3-2-2.歯の大きさや形の異常があるか

歯の大きさの異常には、巨大歯(きょだいし)と矮小歯(わいしょうし)があります。しかし、実際には歯の大きさそのものよりも顎の大きさと歯の大きさを相対的に考えなければなりません。歯の形の異常についても同様のことが言えます。

3-2-3.上下の歯の前後的な咬み合わせ関係

出っ歯や受け口という上下の前歯の位置関係に影響します。上下の前歯の位置関係の異常が予想される状態と矯正治療について説明します。

歯の先天性欠如(せんてんせいけつじょ)があるか

歯の先天性欠如とは生まれつき歯の数が少ないことを言います。これはX線写真を撮ることによって早期に発見できます。特に永久歯の先天性欠如の場合、永久歯が不足している部分を最終的にどのように治療するかを考えなければなりません。入れ歯、ブリッジ、インプラントなどの人工的な物で咬み合わせを作るか、矯正治療で歯を動かして永久歯が足りない部分の隙間を閉じるか、2つの方向性が考えられます。これらの決定には、先天性欠如の部分と残りの歯の大きさのバランスが関係します。左右片方の領域で、上顎の歯が下顎の歯よりも1本少ない場合は、上顎の奥歯を前に詰めてきて隙間を閉じるがほとんどです。上下の歯並びの咬み合わせの関係を考えて、個人個人に合った処置が必要です。

上唇小帯(じょうしんしょうたい)、頬小帯(きょうしょうたい)の過剰な成長があるか

上唇小帯や頬小帯と呼ばれる歯茎と唇の裏の粘膜の間にある筋が成長し過ぎると、その部分の歯と歯の間が開くことの原因になります。昔は早い時期に小帯を切る手術が行われていましたが、現在では歯と歯の間に隙間が空いている部分に、隣りの歯が完全に萌え出た後になっても、小帯のために隙間が残る場合に限って、手術で切るということになっています。

早い時期に失った乳歯があるか

虫歯によって乳歯を早い時期に失ってしまうことの害については、「2-2.不正咬合の原因」の中で説明している様に、とても重要な問題です。

 

乳歯の前歯を早い時期に失うことは、永久歯の歯並びの事だけを考えればあまり影響ないですが、永久歯が萌えるまでの長期間、一番目立つ前歯に歯が無い状態は子供にとっても精神的に好ましいものではありません。 乳歯の犬歯は顎の成長が不十分な場合や永久歯の前歯の歯の幅が大きな場合に、永久歯の2番目の前歯がその後ろの位置に萌えている乳歯の犬歯の根を吸収して、乳歯の犬歯が早く抜けてしまうことがあります。乳歯の犬歯が早い時期に抜けることによって、前歯の咬み合わせが深くなり、永久歯の犬歯が萌え出る部分のスペースが足りなくなります。

乳臼歯(にゅうきゅうし)と呼ばれる乳歯の奥歯は、上下の歯並びの左右それぞれに2本ずつあります。手前の乳臼歯を第一乳臼歯、その後ろの一番大きい乳臼歯を第二乳臼歯と言います。特にこの第二乳臼歯を早い時期に失うことは、早ければ早いほどその悪影響は大きくなります。第二乳臼歯の後ろに萌えるのは6歳臼歯と呼ばれている第一大臼歯(だいいちだいきゅうし)という歯です。第一大臼歯が萌える前であれば、第二乳臼歯を早くに失う悪影響はさらに大きなります。具体的に説明すると、第一大臼歯は第二乳臼歯に沿って後ろにまっすぐ萌えて、正しい咬み合わせの位置に誘導されるのですが、第一大臼歯が萌える時期に第二乳臼歯を失っていると、第一大臼歯が手前の第二乳臼歯を失った位置に倒れながら萌えて来ることになり、本来第二乳臼歯と入れ換わりに萌えて来る第二小臼歯(だいにしょうきゅうし)という永久歯が萌えるスペースが無くなって、転位歯や埋伏歯になり歯並びも咬み合わせも悪くなってしまいます。歯の萌え換わりの時期にこの様な悪い結果を招かないために、乳歯も虫歯を予防しなければなりませんし、乳歯が虫歯になった時は、早い時期に矯正治療で、永久歯の歯並びが悪くならない様な、予防処置をするが望ましいです。

乳歯の晩期残存(ばんきざんぞん)があるか

晩期残存とは、乳歯が永久歯に萌え換わるべき時期に、萌え換わらずにそのまま残った状態のことを言います。

乳歯を晩期残存させる原因としては、以下のものがあります。

1)乳歯が抜ける時期に起きた異変
2)乳歯の根の吸収の遅れ
3)乳歯の根の吸収の仕方の異常

特に乳歯の中で一番大きな第二乳臼歯の晩期残存は、永久歯が萌えるスペース不足になり、その結果永久歯の歯並びや咬み合わせが悪くなる、永久歯が埋伏歯になるなどの原因になることが多いです。乳歯の晩期残存がある場合は、永久歯に悪影響を与える前に晩期残存の乳歯を抜歯するか、または永久歯が乳歯にひっかかって、正しい位置に萌えることができない状態になっている場合は、乳歯を削って永久歯の萌える方向を誘導するということを行います。

永久歯の萌出遅延(ほうしゅつちえん)があるか

乳歯の根の吸収が遅れることによって、永久歯が萌えるのが遅れる場合や、上の前歯に時々現れる根が曲がった形になる異常があると、歯が萌える時期が著しく遅くなると言った場合があります。主に乳歯への外傷などによって、永久歯になる歯胚(しはい)が損傷を受けたり、歯胚が回転することが原因で起こります。重度の場合には直角に近く歯の根が曲がり、萌えるのも遅れたり、異常な位置に萌えたりします。重度に根が曲がった歯の場合は、矯正治療によって萌えさせることができても、理想的な歯並びや咬み合わせまで歯を動かすことはできないことも多いです。

まとめ

歯並びの悪さが原因で起きる様々な問題から、歯並びを悪くしないための予防法までご紹介いたしました。

少しでも気になったり不安に思うことがあれば、歯科医院を受診してみるとよいでしょう。

宮島悠旗
Author: 宮島悠旗(歯科医師/日本矯正歯科学会 認定医)

著書:国際人になりたければ英語力より歯を”磨け”  世界で活躍する人の「デンタルケア」

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