歯科矯正をしようと思ったら、抜歯する必要があると言われ、驚いたり不安になった方も多いのではないでしょうか。
歯科医師は可能であれば抜歯をしない矯正を選択します。しかし、抜かないことで歯ぐきがさがったり、せっかく矯正をしたのに元に戻ってしまったりする場合もあるのです。
今回はなぜ矯正で抜歯が必要になるのか?抜歯をしないことによるデメリットは何なのか、矯正専門医が解説を行いますので、矯正治療を受ける際の参考にしてください。
1. 矯正で抜歯が必要な理由
1-1. なぜ永久歯を抜くことがあるのか
もしも、非抜歯治療で抜歯治療と同じ結果を得られるのなら、患者第一の考えを持っている歯科医師はすべての症例を非抜歯治療で行うはずですが、現実的にすべての患者さんを非抜歯で治すことは出来ないことから、抜歯するという選択を取る場合があるのです。
矯正治療は健康と美しさのために歯並びと咬み合わせを治す医療行為ですが、患者さん1人1人の歯並びによって、その目的を達成するためには、抜歯しないとできないこともあれば、逆に抜歯しないで治療しないとできないこともあります。
抜歯と非抜歯どちらの治療計画が患者さんにとってのメリットが大きいか、ということを考えるのが大切です。すべての患者さんを非抜歯の矯正で対応するというのは、医療行為ではなくなってしまうのです。
1-2. 欧米人と比べて日本人は抜歯が必要になる可能性が高い
日本人は欧米人と比較すると、人種的に顎の幅や奥行が小さく、ただでさえ口元が出ているにもかかわらず、さらに鼻も低いため余計に口元が出ている様に見えてしまう、という顔の骨格的な形の特徴があります。
つまり、欧米人と比較して日本人の患者さんの矯正治療は断然難しく、永久歯を抜かなければ健康を兼ね備えた理想的な歯並び、咬み合わせに治らないことが多いのです。
実際に過去の研究でも、欧米人の矯正で永久歯を抜歯しなければならなかった割合28%(Proffit WR: Angle Orthodontics 64,404-14,1994参照)に対して、日本人は65.4%(戒田清和 他:日本矯正歯科学会雑誌 57,103-106,1998. 参照)と、実に2倍以上の割合だったという報告があります。
1-3. 矯正専門医の見解として、「すべての患者さんに非抜歯で治療可能」は0%
矯正専門医55名に行ったアンケートの結果でも、矯正治療のために永久歯の抜歯(親知らずの抜歯は含めない)をしなければ咬み合わせや口元の状態が理想的に治らないケースがあるという、同様な結果が示されています。(日本歯科矯正専門医学会HP参照)
Q1.「すべての患者さんに非抜歯で治療が可能ですか?」
はい・・・0%
いいえ・・・100%
無回答・・・0%
Q2.「Q1でいいえとお答えになった先生にお聞きします。将来矯正学が現在より進歩、発展したとしたら、すべての患者さんに非抜歯治療が可能になる可能性はありますか。」
はい・・・0%
いいえ・・・98.18%
無回答・・・1.82%
Q3.「永久歯列期の患者さんに対する矯正治療開始にあたり、抜歯が必要とした患者さんの割合(2010年)はどのくらいですか。」
30%未満・・・1.82%
30〜60%未満・・・12.27%
60〜90%未満・・・58.64%
90%以上・・・27.27%
2. 抜歯する歯の選択基準
矯正治療では、患者さんの健康を兼ね備えた理想的な歯並び、咬み合わせに治すために、抜歯を必要とすることがあります。それではどの歯を抜歯するのが患者さんにとって良い選択なのでしょうか。
どうしても永久歯を抜歯しなければ矯正治療ができない場合、患者さんの事を第一に考える歯科医師なら、状態の良くない歯や寿命が短い歯を優先して抜歯するはずです。
すべての歯の健康的条件が同じ場合は、抜歯しても最も影響が少ない歯を選んで抜歯しますが、それは「小臼歯」と呼ばれる犬歯(糸切り歯)と6歳臼歯の間にある2本の小さい歯のうちどちらかを、抜歯する歯として選びます。
2-1. 状態の良くない歯があれば優先的に抜歯する
大きな虫歯がある歯、歯周病(歯槽膿漏)が進んでいる歯、以前に根の中まで虫歯になり神経が無い歯、かぶせ物をしている歯、生まれつき形に異常がある歯、生まれつき歯の質が弱い歯、根が短い歯、等は寿命が短いことが多いため優先的に抜歯します。
2-2. 小臼歯を抜歯する理由
なぜ小臼歯を優先的に選んで抜歯するのでしょうか。まず上下とも4本の前歯は特徴的な形をしていてこの4本の歯が前歯の位置に並んでいないと、見た目に違和感が出てしまいますので前歯を優先的に抜歯することはありません。
次に犬歯(糸切り歯)は上下とも根が長くすべての歯の中で最も寿命が長い歯であり、さらに食べ物を磨り潰す時に咬み合わせを誘導するという大切な役割があるため、例え八重歯だとしても犬歯を優先的に抜歯することはありません。
最後に6歳臼歯と12歳臼歯と呼ばれる奥2本の大きい歯は、食べ物を磨り潰すために最も重要な役割を担っており、複数の根が張っていて咬む力を支えることに最も特化した歯なので、優先的に抜歯することはありません。
このように小臼歯は他の歯と比較すると重要な役割を担っているわけではなく、根も他の歯と比較して短いことから、矯正治療をする時に優先して抜歯することが多いのです。
2-3. 親知らずの抜歯
親知らずは残しておいた方が良い場合と、抜歯しなければならない場合があります。親知らずの歯の向きに問題が無く、虫歯や歯周病で永久歯が無くなってしまった状態や生まれつき永久歯が少ない状態なら、親知らずを残して咬み合わせに参加させるべきです。
一方、親知らずが歯の動きを邪魔してしまう場合や、親知らずの向きに問題があり歯並びを悪くする原因になっている場合は、矯正治療をするために親知らずを抜歯する必要があります。
親知らずは多くの場合、完全に萌えておらず半分もしくは完全に歯茎の中に埋まっているので、抜く時には歯茎を切ったり骨を削ったりすることが多いです。しかし親知らずも小臼歯の抜歯と同じく、痛みを感じるのは麻酔の注射をする時だけです。
但し歯を抜いた後は、親知らずの向きがどのぐらい傾いているか、またどのぐらい深いところに埋まっているかによって骨を削る量が違いますが、骨を削った量が多いほど、痛みも出る上、顔も腫れます。
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