歯列矯正で抜歯が必要な理由と非抜歯の4つのデメリット

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歯科矯正をしようと思ったら、抜歯する必要があると言われ、驚いたり不安になった方も多いのではないでしょうか。

歯科医師は可能であれば抜歯をしない矯正を選択します。しかし、抜かないことで歯ぐきがさがったり、せっかく矯正をしたのに元に戻ってしまったりする場合もあるのです。

今回はなぜ矯正で抜歯が必要になるのか?抜歯をしないことによるデメリットは何なのか、矯正専門医が解説を行いますので、矯正治療を受ける際の参考にしてください。

1. 矯正で抜歯が必要な理由

1-1. なぜ永久歯を抜くことがあるのか

もしも、非抜歯治療で抜歯治療と同じ結果を得られるのなら、患者第一の考えを持っている歯科医師はすべての症例を非抜歯治療で行うはずですが、現実的にすべての患者さんを非抜歯で治すことは出来ないことから、抜歯するという選択を取る場合があるのです。

矯正治療は健康と美しさのために歯並びと咬み合わせを治す医療行為ですが、患者さん1人1人の歯並びによって、その目的を達成するためには、抜歯しないとできないこともあれば、逆に抜歯しないで治療しないとできないこともあります。

抜歯と非抜歯どちらの治療計画が患者さんにとってのメリットが大きいか、ということを考えるのが大切です。すべての患者さんを非抜歯の矯正で対応するというのは、医療行為ではなくなってしまうのです。

1-2. 欧米人と比べて日本人は抜歯が必要になる可能性が高い

日本人は欧米人と比較すると、人種的に顎の幅や奥行が小さく、ただでさえ口元が出ているにもかかわらず、さらに鼻も低いため余計に口元が出ている様に見えてしまう、という顔の骨格的な形の特徴があります。

つまり、欧米人と比較して日本人の患者さんの矯正治療は断然難しく、永久歯を抜かなければ健康を兼ね備えた理想的な歯並び、咬み合わせに治らないことが多いのです。

実際に過去の研究でも、欧米人の矯正で永久歯を抜歯しなければならなかった割合28%(Proffit WR: Angle Orthodontics 64,404-14,1994参照)に対して、日本人は65.4%(戒田清和 他:日本矯正歯科学会雑誌 57,103-106,1998. 参照)と、実に2倍以上の割合だったという報告があります。

1-3. 矯正専門医の見解として、「すべての患者さんに非抜歯で治療可能」は0%

矯正専門医55名に行ったアンケートの結果でも、矯正治療のために永久歯の抜歯(親知らずの抜歯は含めない)をしなければ咬み合わせや口元の状態が理想的に治らないケースがあるという、同様な結果が示されています。(日本歯科矯正専門医学会HP参照)

Q1.「すべての患者さんに非抜歯で治療が可能ですか?」
はい・・・0%
いいえ・・・100%
無回答・・・0%

Q2.「Q1でいいえとお答えになった先生にお聞きします。将来矯正学が現在より進歩、発展したとしたら、すべての患者さんに非抜歯治療が可能になる可能性はありますか。」
はい・・・0%
いいえ・・・98.18%
無回答・・・1.82%

Q3.「永久歯列期の患者さんに対する矯正治療開始にあたり、抜歯が必要とした患者さんの割合(2010年)はどのくらいですか。」
30%未満・・・1.82%
30〜60%未満・・・12.27%
60〜90%未満・・・58.64%
90%以上・・・27.27%

2. 抜歯する歯の選択基準

矯正治療では、患者さんの健康を兼ね備えた理想的な歯並び、咬み合わせに治すために、抜歯を必要とすることがあります。それではどの歯を抜歯するのが患者さんにとって良い選択なのでしょうか。

どうしても永久歯を抜歯しなければ矯正治療ができない場合、患者さんの事を第一に考える歯科医師なら、状態の良くない歯や寿命が短い歯を優先して抜歯するはずです。

すべての歯の健康的条件が同じ場合は、抜歯しても最も影響が少ない歯を選んで抜歯しますが、それは「小臼歯」と呼ばれる犬歯(糸切り歯)と6歳臼歯の間にある2本の小さい歯のうちどちらかを、抜歯する歯として選びます。

2-1. 状態の良くない歯があれば優先的に抜歯する

大きな虫歯がある歯、歯周病(歯槽膿漏)が進んでいる歯、以前に根の中まで虫歯になり神経が無い歯、かぶせ物をしている歯、生まれつき形に異常がある歯、生まれつき歯の質が弱い歯、根が短い歯、等は寿命が短いことが多いため優先的に抜歯します。

2-2. 小臼歯を抜歯する理由

なぜ小臼歯を優先的に選んで抜歯するのでしょうか。まず上下とも4本の前歯は特徴的な形をしていてこの4本の歯が前歯の位置に並んでいないと、見た目に違和感が出てしまいますので前歯を優先的に抜歯することはありません。

次に犬歯(糸切り歯)は上下とも根が長くすべての歯の中で最も寿命が長い歯であり、さらに食べ物を磨り潰す時に咬み合わせを誘導するという大切な役割があるため、例え八重歯だとしても犬歯を優先的に抜歯することはありません。

最後に6歳臼歯と12歳臼歯と呼ばれる奥2本の大きい歯は、食べ物を磨り潰すために最も重要な役割を担っており、複数の根が張っていて咬む力を支えることに最も特化した歯なので、優先的に抜歯することはありません。

このように小臼歯は他の歯と比較すると重要な役割を担っているわけではなく、根も他の歯と比較して短いことから、矯正治療をする時に優先して抜歯することが多いのです。

2-3. 親知らずの抜歯

親知らずは残しておいた方が良い場合と、抜歯しなければならない場合があります。親知らずの歯の向きに問題が無く、虫歯や歯周病で永久歯が無くなってしまった状態や生まれつき永久歯が少ない状態なら、親知らずを残して咬み合わせに参加させるべきです。

一方、親知らずが歯の動きを邪魔してしまう場合や、親知らずの向きに問題があり歯並びを悪くする原因になっている場合は、矯正治療をするために親知らずを抜歯する必要があります。

親知らずは多くの場合、完全に萌えておらず半分もしくは完全に歯茎の中に埋まっているので、抜く時には歯茎を切ったり骨を削ったりすることが多いです。しかし親知らずも小臼歯の抜歯と同じく、痛みを感じるのは麻酔の注射をする時だけです。

但し歯を抜いた後は、親知らずの向きがどのぐらい傾いているか、またどのぐらい深いところに埋まっているかによって骨を削る量が違いますが、骨を削った量が多いほど、痛みも出る上、顔も腫れます。

痛みは痛み止めを飲んでいればほとんど抑えられますが、食べ物を食べたり、口を開けたりした時にしばらくの間鈍い痛みを感じることがあります。

2-4. 過剰歯の抜歯

過剰歯(かじょうし)と呼ばれる余計な歯が歯茎の中に埋まっていると、歯の隙間が空いてしまったり、歯並びが悪くなる原因になります。さらに過剰歯は矯正治療で歯を動かす時に邪魔になるだけでなく、隣の健康な歯の根を傷つけてしまうこともあるため、見つけたら抜歯しなければなりません。

過剰歯はほとんどの場合萌えることができずに歯茎の中に埋まったままの状態になっているので、歯茎を切ったり骨を削ったりする必要があります。これも小臼歯や親知らずの抜歯と同じ様に歯を抜」く時の痛みは麻酔の注射をする時だけですが、深く埋まっている歯を抜くほど骨を削る量が大きくなるので治るまでに時間がかかります。

痛み止めを飲めば痛みはほとんど抑えられますが、傷が治るまでは食べ物を食べたり、舌が触れたり、唇が触れたりすると、じわじわ鈍い痛みを感じます。骨を削って歯を抜く場合は、痛みに加えて顔も腫れるということも覚えておきましょう。

3. 抜歯をしないことによるデメリット

それでは、もし本来抜歯をする必要があるのに、無理やり抜歯をしないで矯正治療をしてしまったら、一体何が起こるのでしょうか?

3-1. 歯茎が下がる

成人の矯正でよく起きる問題は矯正治療の後、歯茎が下がって歯と歯の間に隙間ができてしまうというものです。

これには2つ原因があります。

1つは、矯正治療中歯ブラシが上手くできていないと歯周病が進んでしまい歯茎が下がる、というものですが、こちらは正しい歯ブラシの仕方を学んで毎日歯を清潔に保っていれば防げる問題です。

今回重要なのは次の2つ目の問題で、成人では歯を歯槽骨(歯が萌えている土台の部分の骨)のある範囲より外側に動かし過ぎると、歯の根の部分が歯槽骨から出てきてしまい、その結果として歯茎が下がってしまうということが起きてしまいます。

顎の骨がまだ成長している段階の成長期では、ある程度は歯並びを広げても歯槽骨も成長して適応できるため、歯の根が歯槽骨から出ることはなく歯茎が下がることはありませんが、やはり限度はあります。

3-2. 猿のように口が出た顔になる

歯が大きく歯槽骨の幅が小さくて、本来抜歯が必要な矯正治療であるにも関わらず無理に抜歯をしないで矯正治療を行うと、前歯が並びきらない分外側に飛び出してしまい、その結果口を閉じても口元が出て、もっこりした感じになってしまいます。

そうなってしまうと見た目が悪いだけでなく、無意識に口を閉じることができなくなってしまうため、寝ている時口呼吸になり口の中が乾くため虫歯や歯周病が進みやすくなってしまいます。

3-3. 一番後ろに萌える12歳臼歯が埋まってしまう

歯を抜かないで矯正治療をする方法の1つに、歯を並べる隙間を作るために6歳臼歯を奥に移動する方法があります。しかし、これも歯槽骨がある部分を越えて歯を移動してしまうと、食べ物を咬み潰す重要な役割を担う大臼歯である一番奥の12歳臼歯の萌える場所が無くなってしまい、本末転倒の結果になってしまいます。

3-4. 後戻りが起きやすくなる

後戻りというのは、矯正治療を終えて完全に正しい歯並びと咬み合わせに治った後に、歯が矯正治療前の元の位置に戻ろうとして、歯並びが悪くなることです。これは抜歯で矯正治療をしても歯を抜かないで矯正治療をしても、リテーナーという装置を決められた時間しっかりと使わなければ必ず起こります。

しかし、歯の大きさと歯槽骨の大きさのバランスで、本来歯が並びきらないスペースに無理やり歯を並べた状態であれば、やはり後戻りは起こりやすくなります。

4. 抜歯の必要がないケース

抜歯をしないで矯正治療ができる条件は何でしょうか。乳歯がすべて永久歯に萌え換わった中学入学頃の、歯並びと顎の成長のバランスによって決まります。

つまり、乳歯が残っている間に矯正治療を開始して(1期治療)、乳歯がすべて永久歯に萌え換わるまでに、顎の成長を引き出すことで、抜歯をしないで矯正治療ができる条件を満たせるかどうかです。

1-2. で示した通り、すべての歯が永久歯に萌え換わるまで放置してから矯正治療を開始すると、65.4%の日本人は永久歯を抜歯しなければ正しい歯並びに治すことができませんが、顎の成長が多く残っているうちに早く矯正治療を始めるほど、顎の成長を引き出して、抜歯をしないで矯正治療ができる可能性が高くなるということです。

それでは具体的に永久歯の抜歯が必要ないケースの条件を確認して行きましょう。

4-1. 上顎と下顎の顎の骨の前後的なバランスが整っていること

奥歯で咬んだ状態で、上下の歯の咬み合わせを横から見た時、犬歯から後ろの上下の歯は、山と谷が咬み合う様に、互い違いに咬み合う関係になっているのが正しい咬み合わせです。

抜歯をしないで矯正治療ができる条件の1つは、乳歯がすべて永久歯に萌え換わった中学生以降の時点で、奥歯が互い違いに咬み合っている状態から、上下の歯の前後的なずれが2mm以内程度であることです。

4-2. 上顎と下顎の顎の骨の左右的なバランスが整っていること

奥歯で咬んだ状態で、上下の歯の咬み合わせを正面から見た時、上下の前歯の境目は、一直線に咬み合う関係になっているのが正しい咬み合わせです。

抜歯をしないで矯正治療ができる条件の1つは、乳歯がすべて永久歯に萌え換わった中学生以降の時点で、上下の前歯境目のずれが2mm以内程度であることです。

4-3. 上下の永久歯の本数の過不足が無いこと

親知らずを含めずに、萌えて来なければならない歯の数を数えると、上下左右それぞれ7本ずつで合計28本です。生まれつき部分的に永久歯がない先天性欠損(せんてんせいけっそん)の部分があると、その部分で上下の咬み合わせがずれてしまい、抜歯をしないと矯正治療ができない可能性があります。

上の歯が1本少ない場合は、抜歯をしないで矯正治療ができることも多いですが、もし下の歯だけが1本少ない場合は、上の歯の抜歯をするか、下の歯1本分をデンタルインプラント、入れ歯、ブリッジのうちいずれかで補う必要が出てくるため、矯正歯科医と一般歯科医の連携が大切になるケースです。

4-4. 横から顔を見た時の上下の唇の位置が、鼻の先と顎を結んだ直線(エステティックライン(E line))より前に出ていないこと

奥歯で咬んだ状態で唇を閉じて鏡で横顔を見た時、上下の唇の位置が、鼻の先と顎を結んだ直線上辺りから内側になっているのが正しい咬み合わせです。これも抜歯をしないで矯正治療ができる条件の1つです。

4-5. 歯並びのずれが軽度なこと

抜歯をしないで矯正治療ができる条件の1つは、上下それぞれの歯並びの重なりが5mm以内程度であることです。

まとめ

私達矯正歯科医も、矯正治療で患者さんを正しい歯並びと咬み合わせに治せるのであれば、当然非抜歯(歯を抜かない)の方がいいと考えています。

しかし、この先どんなに矯正治療の技術が進歩しても、「すべての患者さんに非抜歯で矯正治療ができる」ということは、絶対にありません。

患者さんにメリットがあるからこそ、「抜歯して矯正治療をする」というプランが出るのです。

自分の歯並びは、「抜歯が必要なケースなのか、抜歯が必要ないケースなのか」、しっかりと診断を受けた上で、「抜歯する場合のメリットとデメリット、非抜歯の場合のメリットとデメリット」について説明を聞いて納得した上で、矯正治療を始めましょう。

宮島悠旗
Author: 宮島悠旗(歯科医師/日本矯正歯科学会 認定医)

著書:国際人になりたければ英語力より歯を”磨け”  世界で活躍する人の「デンタルケア」

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