八重歯が原因で口が閉じにくい、唇を傷付ける、ちゃんと笑えないなどで悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
八重歯とは、上顎の三番目に萌える犬歯という歯の歯並びが悪い状態を指します。
犬歯は歯の中でも、太くて深い根を持つ最も寿命の長い歯で、噛み合わせの上でも重要な歯であるため、八重歯になっているからと言って犬歯を安易に抜歯してしまうと、理想的な噛み合わせを作れなくなってしまうということが多いです。
そのため、八重歯の矯正治療のために抜歯をする場合は、どの歯を抜歯するのが適切なのか、または八重歯があっても抜歯をせずに矯正治療をすることができるのか、ということがポイントになります。
今回は、八重歯が原因で起こるトラブルと治療法、どんな歯並びの場合に矯正治療で抜歯するとメリットがあるのか、デメリットがあるのかについて詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
1.八重歯とは
一般的に八重歯と呼ばれる歯並びは、専門的には「上顎犬歯の低位唇側転位(ていいしんそくてんい)」と呼ばれる、歯の位置異常の一種で、上顎の犬歯(糸切り歯)が両隣りの歯よりも外側(唇側)に飛び出し、歯の高さが低い位置に萌えている事を意味します。
犬歯は元々尖っている歯ですが、歯並びが外側にずれた事によって、余計に犬歯の尖った感じが強調されて目立ってしまっている状態とも言えます。
そういうところから「八重歯は尖っている」というイメージにも繋がっているのかもしれません。
どういうわけか、日本では魅力的な笑顔を強調すると認識され、昔から八重歯をチャームポイントとしたアイドルが多く存在しましたが、欧米では八重歯というのは吸血鬼の牙を連想させるため、絶対に歓迎されません。
ますます国際的になる世の中で仕事をするにあたって、日本でも八重歯はNGであると言えるでしょう。
2.八重歯になる原因
八重歯は他の歯と表裏に重なって萌えたり、極端に外側に出た状態の歯です。
歯が萌える順番の都合上、犬歯が八重歯になることは多くあります。
八重歯は、顎の骨の成長不足や乳歯の脱落遅延などによって生じる現象であり、永久歯が正常に萌えるためのスペースが足りない場合に発生します。
また生まれつき歯の大きさが大きい場合や、顎の骨が小さい場合にも八重歯になる可能性があるため、遺伝的な要因が大きいと報告されています。
2-1.顎の骨の発達不足
顎が発達するためには幼少期からよく咬むことが必要です。
しかし、幼少期の食べ物は(特に以前と比較して)現在ではとても柔らかい物に移り変わっており、地域によっては小学校の給食でも、柔らかいパン、おかゆの様なごはんが出ることが多いと聞いています。
顎の骨を発達させるためには、咬み応えのある食べ物を正しい姿勢でよく咬むことが必要です。
子供達が外で体を動かして遊ぶ習慣が減ったことも、食欲の減少と食べ物を咬む意識の低下に繋がっているのかもしれません。
顎の骨が発達しなければ、当然、永久歯が並ぶためのスペースが足りなくなり、八重歯になる原因になります。
2-2.歯が大きい
永久歯1本ずつの幅が大きいと、歯が並ぶスペースが足りなくなってしまうため、歯並びが悪くなり、八重歯になる原因になります。
1997~2002年の児童の歯の幅のサイズを知るための調査を行い、その結果を1975~1981年の児童と比較し、年代の違いによる歯の大きさの変化を検討したという研究がありました。
実際に、約20年後にあたる1997~2002年の児童の方が、歯の幅のサイズが大きかったと報告されています。
タンパク質、脂質といった栄養を多く採るようになったことが、歯が大きくなったことに関係しているのではないかと考えられています。
この20年の間でも、歯が大きくなったということが明らかになっていますので、それからさらに10年以上たった今では、もっと歯が大きくなっていたとしても不思議ではありません。
日々の診療で子供の患者様の歯の大きさを見ている限り、7~8年前と今を比べても、随分歯の大きさが大きくなった印象を受けています。
2-3.乳歯が遅くまで残り過ぎた
乳歯は本来、適切な時期に自然に抜けて、後から萌えてくる永久歯に萌え換わります。
しかし、後から永久歯が萌えてきているにもかかわらず、乳歯が自然に抜け落ちない場合があり、これを晩期残存乳歯(ばんきざんぞんにゅうし)といいます。
犬歯の部分に萌えている乳歯の犬歯=乳犬歯(にゅうけんし)が、永久歯の犬歯が萌える時期に晩期残存乳歯になっていると、永久歯の犬歯が正しい位置に萌えることができないため、外側にずれて萌えてしまい、その結果、八重歯になってしまうことがあります。
2-4.上顎前歯部の過剰歯
上顎下顎のどこかに、過剰歯と呼ばれる余分な歯が発生する確率が2~3%、過剰歯のうち50~90%は上顎前歯付近に現われるということが、過去の研究で知られています。
上顎の前歯付近に過剰歯があると、その分、前歯が萌えるスペースが足りなくなってしまうため、前歯の歯並びが悪くなったり、八重歯になったり、前歯と前歯の根の間に挟まっている場合には、すきっ歯になる原因になります。
過剰歯は多くの場合、顎の骨に埋まったまま出てこないため、X線写真(レントゲン写真)を撮影して確認しなければ、お口の中を見ただけでは存在しているかどうか分かりません。
2-5.上顎乳臼歯の早期喪失
上顎の犬歯は12歳臼歯を除いた永久歯の中で、一番最後に萌えるという特徴があります。
そのため奥歯の乳歯が虫歯になり、早く無くなってしまった場合、犬歯より早く萌える奥歯の永久歯が、前の方に移動して、犬歯の萌える予定の位置に隙間を閉じる様に萌えてきてしまうため、犬歯が萌えるスペースが不足してしまい、その結果、犬歯は外側にずれて萌えることになり八重歯になってしまう原因になります。
2-6.犬歯の歯胚の位置異常
歯は最初から根が完成した状態で顎の骨の中にできるわけではありません。
乳歯も永久歯も、始めは歯胚と呼ばれる歯になる元の細胞の塊の状態で、顎の骨の中に姿を現します。
歯胚はまず歯の頭の部分=歯冠(しかん)に変化し、その後、歯の根=歯根(しこん)が伸びるのと同時に、顎の骨の中から口の中に萌えてきます。
犬歯の元である歯胚が外側にずれた位置で完成した場合、歯胚の向きが正しくなく、歯が萌える方向が外向きになっている結果、八重歯になることがあります。
2-7.上顎の骨が生まれつき小さい
上顎の骨が遺伝的に小さい場合は、歯が並ぶスペースが足りなくなってしまうため、八重歯の原因になることがあります。
その他に特殊な例ですが、遺伝により生まれつきのものや、はっきりした原因が分からないものも含まれる全身的な病気で、必ず幾つかの症状が伴ってあらわれるものを症候群(しょうこうぐん)と呼びますが、症候群の中には顎の骨の発達異常の症状があるものもあります。
3.八重歯が原因となって起こるトラブル
八重歯と呼ばれる歯並びが悪い状態は、見た目が良くないだけでなく、お口の中の健康、体全体の健康にとっても、問題となることが色々あります。
3-1.八重歯が尖っていて唇を傷付ける
八重歯は歯並びの中で、犬歯が1本だけ極端に外側に出て、萌えています。
そのため、唇やお口の中の粘膜に、常に強く当たるので、粘膜を咬んでしまったり、日常的に擦れて口内炎になることも多いです。
3-2.笑顔を見せたくないというコンプレックスから、自分に自信が持てなくなる
笑った時に相手に八重歯が見えるというのは、一般的には「恥ずかしい」と感じるものです。
八重歯があるために、人に笑顔を見せることがコンプレックスになると、心理的に自分に自信が持てなくなるため、他人とのコミュニケーションが消極的になり、性格が暗くなってしまう。
潜在的にもその様に感じている方は意外にたくさんいらっしゃいます。
その証拠に矯正治療を受けて歯並びが良くなると、性格が明るくなる方がたくさんいらっしゃるからです。
3-3. 八重歯の周囲に食べ物がひっかかって不潔になりやすく、歯磨きもしづらい
八重歯の様に歯並びが悪い部分には、食べ物がひっかかって残りやすくなります。
さらにその部分は歯ブラシをしても、汚れが残りやすいため、磨き残しになりやすく、虫歯や歯周病の原因菌の温床となります。
虫歯や歯周病の原因菌は、虫歯、歯周病を引き起こすのは勿論の事、口臭の原因にもなります。
また以前から虫歯や歯周病の原因菌が肺炎のリスクを高めることは知られていましたが、最近の研究では、
・虫歯の原因菌が脳出血のリスクを4倍に高める
・妊婦が歯周炎になると早産のリスクが高まる
・歯周炎になると、さらに糖尿病になるリスクが1.7~4.6倍になる
・脳梗塞になるリスクが1.5~2.7倍も高まる
ということまで明らかになっています。
3-4.自然に口を閉じられない=口呼吸の原因になる
八重歯があることによって、自然に口を閉じられなくなってしまうことがあります。
自然に口を閉じられなくなるということは、口呼吸の原因になります。
口で息をする口呼吸の癖があって、いつも口を開けていると、唇が前歯を内側に押す力が弱くなり、前歯は歯並びの外向きに傾いてしまう結果、出っ歯になってしまいます。
そして上下の前歯が外向きに傾いてしまっている場合、歯並びによって口を閉じられない状態になり、ますます口呼吸になってしまうという悪循環になってしまいます。
さらに口呼吸は歯並びが悪くなる原因になるだけでなく、歯周病、アレルギー、喉の炎症のリスクも高めます。
3-5.他の歯や顎への負担が増える
本来犬歯には、食べ物を奥歯で磨り潰す時の顎の運動を支えて誘導する犬歯誘導(けんしゆうどう)という大切な役割があります。
そのため、犬歯の根はどの歯よりも長く丈夫なのですが、犬歯が八重歯になっていると、他の歯が犬歯の代わりに食べ物を奥歯で磨り潰す時の顎の運動を支えて誘導する、という役割を果たすことになります。
しかし、犬歯以外の歯は犬歯ほど根が長くなく、元々そのような役割を果たすことを想定していないため、顎の運動を支える力が弱く、歯に過度の負担がかかってしまい、その結果、歯の寿命が短くなってしまう可能性があります。
また犬歯より後ろの歯が顎の運動を誘導する場合、犬歯誘導の場合と比べて顎が動く角度がズレてしまうということが分かっており、これが顎に対しても負担になってしまうことがあります。
4.抜歯が必要なケース
もしも、非抜歯治療で抜歯治療と同じ結果を得られるのなら、患者さん第一の考えを持っている歯科医師はすべての症例を非抜歯治療で行うはずです。
しかし、現実的にすべての患者さんを非抜歯で治すことはできないため、抜歯するという選択を取る場合があります。
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